「相続税を払えるだけの現金がない」
「相続税を払ったら、この先の生活費が足りなくなる」
相続税は原則として現金で納めます。ところが、相続した財産の大半が自宅や土地だった、というケースは珍しくありません。財産は相続したのに、税金を払うお金がない。そんな状況に陥ることがあるのです。
この記事では、相続税の基本的な仕組みと、納税資金が足りないときの対処法、相続した不動産を売るときに気をつけたいポイントを紹介します。

相続税とは何か?
相続税は、亡くなった人(被相続人)から財産を受け継いだときに、受け継いだ人にかかる税金です。財産が多いほど税額も大きくなります。
納める期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。申告も納税もこの期限までに済ませる必要があり、原則として現金で一括で納めます。
とはいえ、財産を相続した人が全員、相続税を払うわけではありません。後で説明する「基礎控除」の範囲内であれば、相続税はかかりません。
ただ、2015年1月に基礎控除が引き下げられ、それまで相続税と縁のなかった家庭でも課税されるケースが増えました。特に都市部に自宅や土地を持っていると、預貯金はそれほどなくても基礎控除を超えてしまうことがあります。「うちは関係ない」と思い込まず、一度確認しておくと安心です。
相続税は控除されることもある
相続税には「基礎控除」があり、遺産の総額がこの金額以下なら相続税はかかりません。基礎控除の額は、次の式で計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人なら、3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。遺産の総額が4,800万円以下なら、相続税はかかりません。
※2014年12月までは「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でした。
誰が法定相続人になるかは、亡くなった人の家族構成によって決まります。よくあるケースは次の通りです。
- ●配偶者と子どもがいる場合・・・配偶者と子どもが相続人
- ●配偶者がおらず、子どもがいる場合・・・子どもだけが相続人
- ●子どもがおらず、配偶者と親がいる場合・・・配偶者と親が相続人
- ●配偶者も子どももおらず、親がいる場合・・・親だけが相続人
- ●子どもも親もいない場合・・・配偶者と兄弟姉妹(配偶者がいなければ兄弟姉妹だけ)が相続人
※養子も法定相続人になりますが、基礎控除の計算で数に入れられる養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。
※相続放棄をした人がいても、基礎控除の計算では放棄がなかったものとして人数に数えます。
相続人の範囲や順位、それぞれの取り分(法定相続分)は、法定相続人について解説した記事で家族構成別に紹介しています。
基礎控除のほかにも、税額を大きく減らせる制度があります。代表的なのが、配偶者が受け取る財産のうち1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い額までは相続税がかからない「配偶者の税額軽減」と、亡くなった人の自宅の土地などの評価額を最大80%減らせる「小規模宅地等の特例」です。
ただし、これらの特例を使って相続税がゼロになる場合でも、申告は必要です。申告しないと特例は受けられないので注意してください。
生前のうちにできる対策については、不動産で生前にできる相続税対策の記事でまとめています。
相続税の負担額はどのくらい?
相続税の額は、相続財産の「評価額」をもとに計算します。評価額とは、土地や株式のように値段が一目でわからない財産について、国税庁の定めたルールで算出した金額のことです。たとえば土地は、路線価などをもとに評価します。
相続税の計算では、遺産の総額から基礎控除を差し引いた金額を、いったん法定相続分どおりに分けたと仮定し、それぞれの金額に次の税率をかけます。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
具体的な例で計算してみましょう。遺産が1億円、相続人が配偶者と子ども2人の場合です。
・基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
・課税される遺産:1億円-4,800万円=5,200万円
・配偶者(法定相続分2分の1):2,600万円×15%-50万円=340万円
・子ども1人あたり(法定相続分4分の1):1,300万円×15%-50万円=145万円
・相続税の総額:340万円+145万円×2人=630万円
この630万円を、実際に受け取った財産の割合で分けて負担します。法定相続分どおりに分けた場合、配偶者の分は配偶者の税額軽減でゼロになるため、子ども2人で合計315万円を納めることになります。
遺産が自宅の土地と建物だけ、というような家庭では、この数百万円を現金で用意するのが難しい場合もあるわけです。
相続税の支払いに現金が不足してしまうときの5つの対処法
相続税は現金で納めるのが原則ですが、相続した財産が現金ばかりとは限りません。不動産や株式が中心だと、納税に必要な現金が足りなくなることがあります。
そんなときに考えられる方法は、主に次の5つです。
不動産を売却する
もっとも多いのが、相続した不動産を売って現金に換える方法です。誰も住む予定のない実家や、活用していない土地があるなら、まず検討したい方法です。
相続した不動産を売るまでの流れは、おおむね次の通りです。
- ●遺産分割協議で、誰がどの財産を受け継ぐかを決める
- ●相続登記をして、不動産の名義を相続人に変える
- ●不動産会社に、仲介または買取を依頼して売却する
気をつけたいのは、相続税の申告期限である10ヶ月以内に売却代金を受け取れるかどうかです。遺産分割の話し合いが長引くと、売り出しが遅れて納税に間に合わないこともあります。期限が迫っているなら、仲介より短期間で現金化しやすい買取を選ぶのも一つの方法です。
また、相続から3年10ヶ月以内に相続財産を売った場合は、支払った相続税の一部を売却時の経費(取得費)に加えられる「取得費加算の特例」があり、売却にかかる税金を抑えられます。売却時の税金の計算方法は、譲渡所得税について解説した記事をご覧ください。
相続した不動産を早く現金に換える具体的な進め方は、相続した不動産を現金化する方法の記事で詳しく紹介しています。
一方で、相続した不動産の売却は、次のような理由で思うように進まないこともあります。
- ●相続人のうち1人が売却に反対している
- ●遺産分割協議がまとまらず、誰が相続するのか決まらない
- ●借地権や再建築不可など、事情のある物件で買い手が見つからない
売却を考えるなら、早めに相続人同士で話し合いを始めることと、物件の事情に合った売り方を選ぶこと。この2つを意識しておきましょう。
延納手続きをする
相続税を分割払いにしてもらう方法です。相続税額が10万円を超え、期限までに現金で一括して納めるのが難しい場合に、税務署に申請して認められれば、最長20年まで分割して納められます。延納できる期間は、相続財産のうち不動産などが占める割合によって変わります。
ただし、延納には利子税がかかります。また、延納する税額が100万円を超える場合や、延納期間が3年を超える場合は、原則として不動産などの担保を差し出す必要があります。払う期間が延びるぶん、トータルの負担は大きくなる点も覚えておきましょう。
不動産を物納する
現金の代わりに、相続した不動産や株式などで相続税を納める方法です。これを物納といいます。
ただし、物納が認められるのは、延納を使っても現金で納めるのが難しい場合に限られます。「現金を手元に残したいから物納する」ということはできません。
自分で買い手を探さなくてよいので手軽に見えますが、実際には手間がかかります。境界が確定していない土地や、借地権が設定されている土地など、そのままでは物納を認めてもらえない不動産も多く、測量や境界の確定などを済ませておく必要があります。
また、物納した不動産は、相続税評価額で納めたものとして扱われます。相続税評価額は実際に売れる価格より低いことが多いため、場合によっては売却して現金で納めたほうが手元に多く残ることもあります。
金融機関から借り入れる
相続税の納税資金を、銀行などから借りる方法もあります。相続した不動産を担保にするケースが多く、不動産を手放したくない場合や、売却が申告期限に間に合わない場合のつなぎとして使われます。
ただし、借りたお金は利息をつけて返さなければなりません。返済の見通しが立つかどうかを、よく考えてから利用しましょう。
相続放棄をする
最後の手段として、相続そのものを放棄する方法もあります。相続放棄をすれば、相続税を払う必要はなくなります。
ただし、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も一切受け取れなくなります。また、相続放棄は、自分が相続人になったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きをしなければなりません。一度放棄すると、原則として取り消すことはできません。
相続税が払えないという理由だけで放棄すると、かえって損をすることもあります。ほかの方法で納税できないかを、先に検討しましょう。放棄を決める前に不動産の価値を確かめておきたい方は、相続放棄の前に買取査定を受けるべき理由をまとめた記事も参考にしてください。
不動産を売りたいときの遺産協議の手順とポイント
相続した不動産を売るとき、最初の関門になるのが遺産分割協議です。誰がどの財産を受け継ぐかが決まらないと、不動産を売ることも、相続税を正しく計算することもできません。
後で相続人同士が揉めないためにも、手順を押さえておきましょう。
相続人が誰であるかを確認
遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。1人でも欠けていると、その協議は無効になります。そこで、まずは次の点を確認します。
- ●相続人は誰で、何人いるのか(亡くなった人の出生から死亡までの戸籍で確認します)
- ●相続放棄をした人はいないか
あわせて、どんな財産がどれくらいあるのか、亡くなった人が遺言を残していないかも確認します。
遺言がある場合は、原則として遺言の内容に沿って財産を分けます。ただし、配偶者や子どもなど、兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」という最低限の取り分が法律で保障されています。遺言で取り分が遺留分より少なくされた相続人は、多く受け取った人にその差額を金銭で請求できます。
遺産分割協議の方法は自由
遺産分割協議のやり方に、決まった形式はありません。全員で集まって話し合っても、電話や手紙でやり取りしてもかまいません。相続人全員が納得していれば、法定相続分と違う割合で分けることもできます。
難しいのは不動産です。評価の仕方によって価値が変わるうえ、きれいに分けることができないため、「自分だけ損をしている」と感じる人が出やすくなります。
不動産を売って代金を分ける「換価分割」にすれば、分ける額がはっきりするので、不公平感は生まれにくくなります。
遺産分割協議の内容を書面にする
話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作ります。相続人全員が署名し、実印で押印して、印鑑証明書を添えます。
協議書は、不動産の名義を変える相続登記や、預貯金の解約、相続税の申告などで必要になります。なお、2024年4月から相続登記は義務になり、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記しなければなりません。登記が済んでいない不動産の売り方は、相続登記が未了の不動産の売却について解説した記事で紹介しています。
遺産分割協議がまとまらない時にはどうなる?
話し合いがまとまらない間、相続した不動産は相続人全員が法定相続分の割合で共有している状態になります。それでも決着がつかない場合は、家庭裁判所の調停や審判で分け方を決めることになります。
共有の状態でも、自分の持分だけなら単独で売ることができます。ただし、不動産全体を売るには共有者全員の同意が必要です。持分だけを買いたいという一般の人はほとんどいないため、共有持分は売りにくい不動産とされています。
売るつもりがなくても、共有のままにしておくと次のような問題が起こりがちです。
- ●建替えや売却など、大きな変更には共有者全員の同意が必要
- ●人に貸すなどの管理行為には、持分の価格の過半数の同意が必要
- ●共有者が亡くなるたびに持分がさらに相続され、権利関係がどんどん複雑になる
相続人のうち1人がどうしても売却に反対していると、共有状態をなかなか解消できません。子どもや孫の代に問題を先送りしないためにも、できるだけ共有は避け、1人の名義にまとめるか、売却して代金で分けることをおすすめします。
すでに共有になってしまった場合の対処法は、共有持分を相続したときの対処法の記事で解説しています。
自身の状況に合った専門の不動産会社に相談・査定を依頼
相続した不動産が借地権付きの家や底地、再建築不可の物件、共有持分などの場合は、売却に専門的な知識が必要です。
こうした物件は一般の買い手が少なく、不動産会社によっては取り扱いを断られることもあります。売り出しても買い手がつかず、相続税の申告期限が近づいてしまうケースも少なくありません。
借地権や底地、共有持分などを専門に扱う買取会社であれば、こうした物件を活用するノウハウがあるため、事情のある不動産でも買い取れることがあります。買取なら買い手を探す必要がないので、短期間で現金化しやすく、納税期限が迫っている場合にも心強い選択肢です。
物件の種類ごとの売り方は、次の記事でも詳しく紹介しています。
マーキュリーでは、借地権・底地や共有持分など、事情のある不動産の査定・買取を行っています。「相続した土地が売れるかわからない」「申告期限までに現金化したい」という段階でも、お気軽にご相談ください。
相続税と不動産売却についてよくある質問
相続税の納税や、相続した不動産の売却について、よくいただく質問をまとめました。
相続税はいつまでに払わなければいけませんか
亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、申告と納税の両方を済ませる必要があります。期限を過ぎると延滞税や加算税がかかることがあるため、不動産を売って納税するなら早めに動き始めましょう。
遺産が基礎控除以下なら、申告は必要ありませんか
遺産の総額が基礎控除以下であれば、相続税はかからず申告も不要です。ただし、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って相続税がゼロになる場合は、申告が必要です。申告しないと特例を受けられません。
延納と物納は、どちらを選べばよいですか
まず検討するのは延納です。物納は、延納を使っても現金で納めるのが難しい場合にしか認められません。また、物納した不動産は相続税評価額で納めた扱いになるため、売却して現金で納めたほうが手元に多く残ることもあります。
遺産分割協議がまとまる前に、不動産を売ることはできますか
相続人全員が同意すれば可能です。いったん法定相続分どおりに相続登記をして、全員が売主になって売却し、代金を分けます。ただし全員の協力が必要なので、1人でも反対していると売却はできません。
相続した不動産を売ると、税金はかかりますか
売却益が出た場合は、譲渡所得税と住民税がかかります。相続から3年10ヶ月以内に売れば、支払った相続税の一部を経費に加えられる「取得費加算の特例」が使えます。亡くなった人が一人で住んでいた家を売る場合は、要件を満たせば最大3,000万円を差し引ける特例もあります。
共有名義になった不動産は、自分の持分だけ売れますか
売れます。自分の持分だけであれば、ほかの共有者の同意は必要ありません。ただし、持分だけを買う一般の人はほとんどいないため、共有持分を専門に扱う買取会社に相談するのが現実的です。
相続放棄をすれば、相続税は払わなくてよいですか
払わなくてよくなります。ただし、借金などだけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も一切受け取れなくなります。放棄は相続人になったと知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きが必要で、原則として取り消せません。





