「相続税の対策をしておけばよかった」というご相談は、相続が起きた後にいただくことが少なくありません。ただ、亡くなった後にできることは限られます。生前であれば、不動産の持ち方や渡し方を見直すことで、相続税の負担や相続人同士のトラブルを減らせる場合があります。
不動産は現金と違い、評価の仕方が複雑で、分けにくく、売るにも時間がかかります。財産の多くが不動産という方ほど、早めに準備しておく意味は大きくなります。
この記事では、不動産をお持ちの方が生前にできる相続税対策を7つに整理し、それぞれのメリットと注意点を解説します。2027年から始まる賃貸用不動産の評価ルールの見直しについても触れています。
まず確認:相続税がかかるかどうか
相続税は、遺産の総額が基礎控除額を超えた場合にかかります。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、配偶者と子ども2人が相続人なら、基礎控除額は4,800万円です。都内に自宅を持っている方は、土地の評価額だけでこの金額に近づくことも珍しくありません。
対策を考える前に、まずは不動産の相続税評価額と、相続税がいくらかかりそうかを把握しましょう。土地は原則として路線価をもとに評価し、建物は固定資産税評価額をもとに評価します。借地権の評価は借地権割合と路線価の見方で詳しく解説しています。
相続税の計算の流れは、相続税の算出方法の解説でも紹介しています。
不動産で生前にできる相続税対策7選
不動産を使った生前の相続税対策は、大きく「財産を減らす」「評価額を下げる」「納めやすく、分けやすくする」の3つに分けられます。
| 対策 | ねらい | 向いている方 |
|---|---|---|
| 1. 生前贈与(暦年課税) | 財産を減らす | 時間をかけて少しずつ渡したい方 |
| 2. 相続時精算課税 | 将来値上がりする財産を早めに渡す | 特定の子に不動産を渡すと決めている方 |
| 3. 小規模宅地等の特例を使える形に整える | 評価額を下げる | 自宅や賃貸物件の土地をお持ちの方 |
| 4. 土地を賃貸に活用する | 評価額を下げる | 空き地や使っていない土地をお持ちの方 |
| 5. 売却・組み換えで分けやすくする | 分けやすくする・納税資金を作る | 分けにくい不動産が多い方 |
| 6. 納税資金を準備する | 納めやすくする | 財産の大半が不動産の方 |
| 7. 家族信託で判断能力の低下に備える | 対策を続けられるようにする | 将来の認知症が心配な方 |
1. 生前贈与(暦年課税)で少しずつ財産を移す
贈与税には、1人あたり年間110万円の基礎控除があります。毎年110万円以内で子や孫に贈与すれば贈与税はかからず、その分、将来の相続財産を減らせます。
ただし、亡くなる前の一定期間内の贈与は、相続財産に足し戻されます。この期間は、2024年1月1日以後の贈与から段階的に3年から7年に延びており、2031年以後に開始する相続では7年になります。贈与は、早く始めるほど足し戻しの対象から外れやすくなります。
不動産そのものを毎年少しずつ(持分で)贈与する方法もありますが、そのたびに登記費用や不動産取得税がかかり、共有名義も増えます。不動産は売却して現金化してから贈与するほうが扱いやすいケースも多くあります。
贈与税がかからない贈与の特例(住宅取得資金の贈与など)は、生前贈与の非課税制度の解説もあわせてご覧ください。
2. 相続時精算課税で、値上がりしそうな不動産を早めに渡す
相続時精算課税は、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税がかからない制度です。2024年からは、この2,500万円とは別に年110万円の基礎控除も使えるようになりました。
贈与した財産は、相続のときに贈与した時点の価額で相続財産に足し戻されます。そのため、再開発などで将来値上がりが見込まれる不動産を早めに渡しておくと、値上がり分に相続税がかかりません。
一方で、この制度を選ぶと同じ親からの贈与に暦年課税は使えなくなります。また、贈与で受け取った土地には小規模宅地等の特例が使えません。自宅の土地を渡す場合は、相続で渡したほうが有利なこともあるため、税理士と比較して判断しましょう。
3. 小規模宅地等の特例を使える形に整えておく
小規模宅地等の特例は、亡くなった方の自宅や事業・賃貸に使っていた土地の評価額を、大きく減らせる制度です。
| 土地の種類 | 限度面積 | 評価の減額割合 |
|---|---|---|
| 自宅の土地(特定居住用宅地等) | 330㎡ | 80% |
| 事業に使っていた土地(特定事業用宅地等) | 400㎡ | 80% |
| 賃貸に使っていた土地(貸付事業用宅地等) | 200㎡ | 50% |
たとえば、相続税評価額が6,000万円・面積200㎡の自宅の土地を、同居している子が引き継いで特例を使えた場合、評価額は80%減って1,200万円になります。評価額が4,800万円下がるため、相続税への影響はかなり大きくなります(実際に使えるかは要件を満たすかどうかで決まります)。
自宅の土地に使う場合、引き継ぐのが配偶者か、同居している親族か、持ち家のない親族かなど、誰が相続するかによって使えるかどうかが変わります。生前に「誰が自宅を引き継ぐのか」「同居するのか」を家族で決めておくことが、特例を確実に使う準備になります。
参考:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」
4. 使っていない土地を賃貸に活用して評価額を下げる
人に貸している土地や建物は、自分で使っている場合より相続税評価額が低くなります。たとえば、土地にアパートを建てて貸すと、建物は固定資産税評価額から借家権割合(多くの地域で30%)を差し引いた額で、土地は「貸家建付地」として借地権割合などに応じて減額されて評価されます。
ただし、相続税を減らすために借入れをして建てた結果、空室や修繕費で赤字になってしまうケースもあります。立地や将来の賃貸需要は、建てる前に慎重に見極めてください。
5. 売却・組み換えで「分けやすい財産」にする
相続でもめる原因の多くは、分けにくい不動産です。実家が1軒だけで相続人が3人いる、借地権や底地、共有名義の土地があるといった場合、相続のときに話し合いがまとまらないことがあります。
生前に次のような整理をしておくと、相続がスムーズになります。
- 使っていない土地や空き家を売却し、現金で分けられるようにする
- 1つの大きな土地を、相続人の数に合わせて分けやすい形に組み換える
- 借地権・底地・共有持分など権利関係が複雑な不動産を、生前に整理・売却しておく
- 収益性の低い物件を、管理しやすい物件に買い替える
売却すると相続税評価ではなく現金の額がそのまま財産になるため、相続税だけで見ると不利になることもあります。相続税だけで判断せず、「分けやすさ」「納めやすさ」とのバランスで考えましょう。
6. 相続税の納税資金を準備しておく
相続税は、原則として亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に現金で納めます。財産のほとんどが不動産の場合、相続人が手元の現金で払えず、期限に追われて不動産を安く売ってしまうこともあります。
生前に一部の不動産を売却して現金を確保しておく、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を活用するなど、納税資金の準備も、立派な相続対策のひとつです。
相続が起きた後に納税資金が足りない場合の対処法は、相続税対策としての不動産売却で解説しています。
7. 家族信託で、判断能力が低下しても対策を続けられるようにする
ここまでの対策は、どれも親本人の判断能力があることが前提です。認知症などで判断能力が低下すると、贈与も売却も組み換えもできなくなります。成年後見制度を使っても、相続税対策のための財産の移動は原則として認められません。
家族信託を使えば、元気なうちに不動産の管理・売却の権限を家族に託しておけるため、将来判断能力が低下しても、売却や組み換えを続けられます。
詳しくは、成年後見制度と家族信託の違いをご覧ください。
2027年から注意:相続直前に買った賃貸不動産の評価が変わる
これまで、相続の直前に賃貸マンションなどを購入して評価額を下げる対策が行われてきました。これに対し、令和8年度税制改正大綱で、評価方法の見直しが示されています。
- 亡くなる前5年以内に取得した一定の賃貸用不動産は、通常の取引価額(時価に近い額)で評価する
- 課税上の弊害がない場合は、取得価額をもとに地価の変動などを考慮した額の80%で評価できる
- 不動産小口化商品は、取得時期にかかわらず通常の取引価額で評価する
- 2027年1月1日以後の相続・贈与から適用される予定
つまり、「亡くなる直前に不動産を買って相続税を減らす」対策は、今後は効果が小さくなります。賃貸不動産を使った対策は、長い期間をかけて計画的に行うことがより重要になります。
また、マンション(区分所有)については、2024年1月1日以後の相続・贈与から、市場価格との差を補正する新しい評価方法がすでに適用されています。
参考:SBI証券「令和8年度税制改正大綱の【相続税・贈与税】を解説」
ケース別:どの対策から始めるべき?
お持ちの不動産や家族の状況によって、優先すべき対策は変わります。代表的なケースを紹介します。
都内の自宅が財産の大半を占める
まずは、自宅を誰が引き継ぐかを決め、小規模宅地等の特例が使えるかを確認しましょう。特例が使えれば、土地の評価額を大きく下げられます。あわせて、納税資金が足りるかどうかも試算しておきます。
使っていない土地や空き家がある
賃貸に活用して評価額を下げるか、売却して現金にし、贈与や納税資金に回すかを比べます。建物が古い、接道が悪いなどで活用が難しい場合は、早めの売却が現実的です。再建築できない土地の場合は、再建築不可物件を相続したときの対処法もあわせてご覧ください。
借地権・底地・共有名義の不動産がある
権利関係が複雑な不動産は、相続人が引き継いでも処分しにくく、もめる原因になりがちです。地主や共有者との調整は、親が元気なうちに進めておくほうが話がまとまりやすくなります。借地権の生前贈与の注意点は借地権の相続の解説、共有名義の不動産は共有持分を相続したときの対処法も参考にしてください。
子どもが複数いて、不動産が1つしかない
不動産を誰か1人が引き継ぎ、ほかの子には代わりの現金を渡す方法や、売却して現金で分ける方法を検討します。遺言書で分け方を決めておくと、話し合いの負担を減らせます。
生前の相続対策で失敗しないための注意点
- 節税だけを目的にしない:相続税が減っても、借入れや空室で家族の手元に残る財産が減っては意味がありません。
- 家族で共有しておく:誰に何を渡すかを親だけで決めると、相続のときに不満が出ることがあります。遺言書とあわせて、家族で話し合っておきましょう。
- 行き過ぎた節税は否認されることがある:相続税を減らすことだけを目的とした不自然な取引は、税務署に通常の時価で評価し直されることがあります。
- 専門家を組み合わせて相談する:税金は税理士、登記は司法書士、不動産の評価・売却・活用は不動産会社と、それぞれの専門家の視点が必要です。
よくある質問
相続税対策はいつから始めるべきですか?
早いほど選択肢が多くなります。生前贈与の足し戻し期間が7年に延びたことや、2027年から賃貸不動産の評価ルールが見直されることを考えると、遅くとも70代のうちに方針を決めておくのが安心です。
自宅を子どもに生前贈与したほうが得ですか?
一概には言えません。自宅の土地は、相続で引き継げば小規模宅地等の特例で評価額を最大80%減らせる場合があります。贈与では特例が使えず、不動産取得税や登録免許税もかかるため、相続のほうが有利なことも多くあります。
相続税がかからない場合でも対策は必要ですか?
必要です。相続税がかからなくても、分けにくい不動産があると相続人同士でもめることがあります。実家をどうするか、共有にしないかなど、「分け方」の準備はどの家庭にも役立ちます。
相続対策の相談は、税理士と不動産会社のどちらにすればよいですか?
相続税の計算や申告は税理士の専門分野ですが、不動産をどう活用・売却・組み換えるかは不動産会社の得意分野です。不動産が財産の中心なら、税理士と連携している不動産会社に相談すると、税金と実際の売買・活用の両面から対策を検討できます。
借地権や底地、共有持分の不動産でも対策できますか?
できます。権利関係が複雑な不動産ほど、相続のときに処分が難しくなります。生前に地主や共有者と調整して整理・売却しておくことが、有効な相続対策になります。
まとめ:不動産の相続対策は「減らす・下げる・分けやすくする」
不動産を使った生前の相続対策は、生前贈与で財産を減らす、特例や賃貸活用で評価額を下げる、売却や組み換えで分けやすく納めやすくする、の3つの方向で考えるのが基本です。そして、どの対策も親が元気なうちにしかできません。
マーキュリーでは、税理士・司法書士と連携し、不動産の評価の確認から、売却・組み換え・権利関係の整理、家族信託の活用までご提案しています。「うちの不動産で何ができるか知りたい」という段階からお気軽にご相談ください。





