親が認知症になり、「施設への入居費用を用意するため自宅を売却したい」と考えても、本人の判断能力が十分でなければ、家族が代わりに自由に売却できるわけではありません。
不動産売買は重要な法律行為であるため、本人が契約内容を理解して判断する能力がない場合には、成年後見制度を利用して売却を進めることがあります。
ただし、成年後見人等が選任されたからといって、本人の不動産を自由に処分できるわけではありません。
特に、本人が住んでいる、または過去に住んでいた自宅などの「居住用不動産」を売却する場合には、原則として家庭裁判所の許可が必要です。
この記事では、成年後見制度の仕組み、法定後見と任意後見の違い、成年後見人による不動産売却の方法、家庭裁判所の許可が必要になるケース、売却までの流れや注意点をわかりやすく解説します。
- 1 成年後見制度とは?
- 2 法定後見制度とは
- 3 任意後見制度とは
- 4 判断能力がない本人名義の不動産を家族だけで売ることはできない
- 5 成年後見人は本人の不動産を売却できる?
- 6 居住用不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要
- 7 家庭裁判所は不動産売却の何を確認する?
- 8 家庭裁判所の許可が必要な「処分」は売却だけではない
- 9 居住用ではない不動産なら家庭裁判所の許可は不要?
- 10 成年後見制度を利用して不動産を売却する流れ
- 11 家庭裁判所へ不動産売却の許可を申し立てる際の主な資料
- 12 成年後見人による不動産売却で注意したいポイント
- 13 成年後見制度の利用には時間がかかる
- 14 成年後見制度は2026年に改正法が成立している
- 15 成年後見制度を利用した不動産売却は専門家と連携して進める
- 16 成年後見制度による不動産売却に関するよくある質問
- 17 まとめ|成年後見制度による不動産売却は家庭裁判所の手続きも確認する
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方の財産管理や契約などを支援する制度です。
例えば、本人の判断能力が低下していると、不動産売買や金融商品の契約などについて内容を十分に理解できず、不利な契約を結んでしまう可能性があります。
そこで、本人を保護しながら財産管理や生活上必要な契約などを行えるように設けられているのが成年後見制度です。
成年後見制度には、大きく分けて次の2種類があります。
- 法定後見制度
- 任意後見制度
法定後見制度とは
法定後見制度は、すでに本人の判断能力が低下している場合に利用する制度です。
本人の判断能力の程度に応じて、現在は「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。
| 後見 | 保佐 | 補助 | |
|---|---|---|---|
| 対象となる方 | 判断能力が欠けているのが通常の状態 | 判断能力が著しく不十分 | 判断能力が不十分 |
| 支援する人 | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 |
| 主な権限 | 原則として包括的な代理権・取消権 | 一定の重要な法律行為について同意権・取消権。必要に応じ代理権 | 家庭裁判所が定めた範囲で同意権・取消権・代理権 |
家庭裁判所が本人の状態や事情を確認し、成年後見人・保佐人・補助人を選任します。
申立てをした親族が必ず成年後見人等に選任されるわけではなく、司法書士・弁護士などの専門職や法人が選任される場合もあります。
成年後見制度の概要については、法務省「成年後見制度」も確認してください。
任意後見制度とは
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、自分で任意後見人となる人や代理してもらう内容を決めておく制度です。
任意後見契約は、公正証書によって締結する必要があります。
契約を結んだだけですぐに任意後見人が活動を始めるわけではありません。
本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が生じます。
任意後見人が不動産を売却できるかどうかは、任意後見契約で与えられている代理権の内容によって判断します。
判断能力がない本人名義の不動産を家族だけで売ることはできない
「父が認知症なので、息子である自分が代わりに実家を売却したい」というケースは少なくありません。
しかし、不動産の名義が父親である以上、子どもだからという理由だけで売買契約を締結することはできません。
不動産の所有者はあくまで本人であり、家族に当然の代理権があるわけではないためです。
また、本人の判断能力が十分でない状態で本人自身が売買契約を締結すると、その契約の有効性が問題になる可能性があります。
そのため、本人に不動産売却について必要な判断能力がない場合には、成年後見制度などを利用して手続きを進めることを検討します。
成年後見人は本人の不動産を売却できる?
成年後見人は、本人の財産を管理し、必要に応じて本人を代理して法律行為を行うことができます。
そのため、本人の生活費・施設費・医療費などを確保する目的で、不動産を売却することもあります。
ただし、成年後見人には本人の財産を守る義務があります。
「管理が面倒だから」「家族が現金化したいから」といった理由だけで、本人に不利益となる不動産売却を自由に行えるわけではありません。
本人にとって売却する必要性があるのか、価格は適正か、売却後の生活に問題がないかなどを考えて進める必要があります。
居住用不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要
成年後見人が本人の居住用不動産を売却する場合には、民法859条の3により、事前に家庭裁判所の許可を得る必要があります。
ここでいう居住用不動産は、現在本人が住んでいる住宅だけとは限りません。
現在は施設や病院に入っているものの、以前自宅として利用しており、将来戻る可能性がある住宅なども居住用不動産として扱われることがあります。
本人にとって自宅は単なる財産ではなく、生活の本拠となる重要な不動産であるため、特に慎重な判断が求められています。
家庭裁判所は不動産売却の何を確認する?
居住用不動産の処分許可を申し立てると、家庭裁判所は主に次のような点を確認します。
- なぜ不動産を売却する必要があるのか
- 本人が今後自宅へ戻る可能性があるか
- 本人の今後の居住場所が確保されているか
- 本人の資産・収入・支出状況
- 施設費や医療費など今後必要となる費用
- 不動産を保有し続ける管理コスト
- 本人の意向
- 売却価格が適正か
- 売却することで本人にどの程度の不利益が生じるか
売却価格の妥当性を確認するため、不動産会社の査定書などの提出を求められることがあります。
「本人のために売却する必要がある」ということを具体的な資料で説明できるようにしておくことが重要です。
家庭裁判所の許可が必要な「処分」は売却だけではない
居住用不動産について家庭裁判所の許可が必要になる「処分」は、売却だけではありません。
裁判所では、例えば次のような行為も処分に含まれると案内しています。
- 不動産の売却
- 賃貸借・使用貸借の設定
- 賃貸借等の解除
- 抵当権の設定
- 本人が利用していた住宅の返還
居住用不動産について大きな権利変更を行う場合は、事前に家庭裁判所へ確認することが重要です。
居住用ではない不動産なら家庭裁判所の許可は不要?
成年後見人が本人所有の投資用マンションや空き地など、居住用ではない不動産を売却する場合、民法859条の3による居住用不動産処分許可は原則として必要ありません。
ただし、だからといって成年後見人が自由に売却してよいという意味ではありません。
本人の財産を処分する以上、売却の必要性や価格の妥当性を確認し、本人の利益を害さないよう慎重に判断する必要があります。
また、家庭裁判所から後見事務について報告や資料提出を求められる場合があります。
成年後見制度を利用して不動産を売却する流れ
法定後見制度を利用して本人の不動産を売却する場合は、一般的に次のような流れで進めます。
- 本人の判断能力を確認する
- 本人住所地を管轄する家庭裁判所へ後見等開始を申し立てる
- 家庭裁判所による調査・必要に応じた鑑定を受ける
- 成年後見人等が選任される
- 本人の財産状況を調査する
- 不動産会社へ査定を依頼する
- 売却の必要性・条件を整理する
- 居住用不動産なら家庭裁判所へ処分許可を申し立てる
- 家庭裁判所の許可後、売買契約を締結する
- 決済・所有権移転・売却代金の管理を行う
STEP1.家庭裁判所へ後見等開始を申し立てる
本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ後見・保佐・補助開始の申立てを行います。
申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、市区町村長などです。
STEP2.家庭裁判所による調査
家庭裁判所は、本人の生活状況・財産状況・判断能力などを確認します。
必要に応じて本人の判断能力について医学的な鑑定が行われることもあります。
STEP3.成年後見人等が選任される
家庭裁判所が後見等を開始する審判をし、成年後見人等を選任します。
申立人が希望した家族ではなく、弁護士・司法書士などの専門職が選任される場合もあります。
STEP4.財産目録などを作成する
成年後見人や財産管理の代理権を持つ保佐人・補助人は、本人の財産を調査し、財産目録や収支予定表などを作成します。
財産目録は原則として就職後1か月以内に作成する必要があります。
STEP5.不動産を査定する
売却を検討する不動産について、不動産会社へ査定を依頼します。
家庭裁判所へ居住用不動産処分許可を申し立てる際、売却価格が適正であることを確認する資料として査定書などが必要になることがあります。
STEP6.居住用不動産なら家庭裁判所へ売却許可を申し立てる
本人の居住用不動産を売却する場合には、売買契約を確定させる前に家庭裁判所の許可を得る必要があります。
売却価格・買主・売却理由などを明らかにし、査定書や売買契約書案など必要な資料を提出します。
STEP7.売買契約・決済を行う
家庭裁判所から許可を得た後、条件に沿って売買契約・決済を進めます。
売却代金は成年後見人個人の財産ではなく、本人の財産として管理します。
家庭裁判所へ不動産売却の許可を申し立てる際の主な資料
必要書類は家庭裁判所や事案によって異なりますが、一般的には次のような資料を準備します。
- 居住用不動産処分許可申立書
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産評価証明書など不動産に関する資料
- 不動産会社の査定書
- 売買契約書案
- 本人の財産・収支状況が分かる資料
- 売却する必要性を説明する資料
- 本人の今後の居住場所が分かる資料
実際に必要となる書類は申立先の家庭裁判所へ確認してください。
成年後見人による不動産売却で注意したいポイント
本人の利益を最優先にする
成年後見制度は、家族の財産整理のためではなく、本人を保護するための制度です。
そのため、不動産売却についても「相続人になる子どもが売却したいから」といった事情ではなく、本人にとって売却する必要性やメリットがあるかが重要になります。
相場より著しく安い価格で売却しない
成年後見人には本人の財産を適切に管理する責任があります。
本人の不動産を合理的な理由なく相場より大幅に安い価格で売却すると、本人の財産を減少させることになります。
そのため、査定書や周辺の取引事例などを確認し、売却価格の妥当性を説明できるようにしておくことが大切です。
親族間売買では利益相反に注意する
成年後見人自身やその親族が本人の不動産を購入する場合などには、本人と成年後見人の利益が対立する可能性があります。
このような利益相反行為では、特別代理人の選任など別の手続きが必要になる場合があります。
親族間での売却を考えている場合は、契約を進める前に家庭裁判所や法律の専門家へ確認しましょう。
居住用不動産は許可前に処分を確定しない
居住用不動産については、家庭裁判所の許可が前提になります。
先に売却を確定させてしまうのではなく、不動産会社や司法書士・弁護士などと相談しながら、家庭裁判所の手続きと売買手続きを調整して進めることが重要です。
成年後見制度の利用には時間がかかる
本人の判断能力が低下してから「すぐ家を売りたい」と考えても、法定後見制度では家庭裁判所への申立てから成年後見人等の選任まで一定の期間が必要です。
さらに、居住用不動産であれば成年後見人等の選任後に家庭裁判所へ処分許可を申し立てる必要があります。
そのため、施設入居費や医療費の支払い期限が迫ってから不動産売却を始めると、希望するタイミングに間に合わない可能性があります。
本人にまだ十分な判断能力がある段階であれば、任意後見や家族信託など、将来の財産管理方法について事前に専門家へ相談しておくことも選択肢になります。
成年後見制度は2026年に改正法が成立している
成年後見制度については、2026年6月に制度を大きく見直す改正法が成立し、同月24日に公布されています。
改正法では、現在の「後見」「保佐」を廃止して補助制度へ一元化し、本人に必要な範囲・期間で支援を利用できる仕組みへ見直すことなどが予定されています。
ただし、成年後見制度に関する改正部分は、2026年9月時点ではまだ施行されていません。
公布日の2026年6月24日から2年6か月以内に、政令で定める日に施行される予定です。
そのため、現時点で成年後見制度を利用する場合は、従来どおり「後見・保佐・補助」の制度に基づいて手続きを行います。
制度改正については、法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)」をご確認ください。
成年後見制度を利用した不動産売却は専門家と連携して進める
成年後見制度を利用した不動産売却では、一般的な不動産売却とは異なり、家庭裁判所での手続きや本人の財産管理を考えながら進める必要があります。
特に本人の居住用不動産では、売却価格を決めて買主を探すだけではなく、家庭裁判所へ売却の必要性や価格の妥当性を説明し、許可を得る必要があります。
マーキュリーでは、成年後見制度が関係する不動産についても、物件の査定・買取や売却方法のご相談を承っています。
成年後見人の選任や家庭裁判所への申立てなど法律上の手続きについては、司法書士や弁護士などの専門家と連携しながら進めることが重要です。
「親が認知症になり自宅を売却したい」「施設費用のため不動産を現金化したい」「成年後見人になったが、どのように不動産を売ればよいか分からない」といった場合は、早い段階で売却価格と必要な手続きを確認しておきましょう。
成年後見制度による不動産売却に関するよくある質問
認知症になった親の不動産を子どもが代わりに売却できますか?
子どもであるという理由だけで、親名義の不動産を自由に売却することはできません。本人に売買契約を判断する能力がない場合は、成年後見制度などを利用して売却することを検討します。
成年後見人になれば不動産を自由に売却できますか?
自由に売却できるわけではありません。成年後見人には本人の財産を適切に管理する義務があり、本人の利益のために売却する必要があります。特に本人の居住用不動産を処分する場合は、家庭裁判所の事前許可が必要です。
施設に入居して空き家になった自宅も家庭裁判所の許可が必要ですか?
現在本人が住んでいなくても、以前居住しており、将来戻る可能性がある住宅などは居住用不動産に該当することがあります。売却前に家庭裁判所へ確認することが重要です。
投資用マンションの売却にも家庭裁判所の許可が必要ですか?
本人の居住用ではない投資用不動産については、民法859条の3による居住用不動産処分許可は原則として必要ありません。ただし、本人の財産を処分するため、売却の必要性や価格の妥当性を確認して慎重に進める必要があります。
成年後見人が本人の家を購入することはできますか?
成年後見人自身が買主になる場合は、本人と成年後見人の利益が対立する利益相反行為となる可能性があります。その場合、特別代理人の選任などが必要になることがあるため、事前に家庭裁判所へ確認してください。
成年後見制度の申立てから不動産売却までどのくらいかかりますか?
一律の期間は決まっていません。本人の状態、家庭裁判所の審理、鑑定の有無、成年後見人等の選任、居住用不動産処分許可の審理などによって異なります。売却期限がある場合は早めに手続きを開始することが重要です。
任意後見人でも不動産を売却できますか?
任意後見契約の代理権の範囲に不動産売却が含まれていれば、契約発効後に売却できる場合があります。具体的な権限は任意後見契約の内容によって異なるため、公正証書の代理権目録などを確認する必要があります。
まとめ|成年後見制度による不動産売却は家庭裁判所の手続きも確認する
本人が認知症などによって不動産売却の内容を十分に判断できない場合、家族が本人に代わって自由に不動産を売却することはできません。
このような場合には、成年後見制度を利用し、成年後見人等が本人を支援しながら不動産売却を進める方法があります。
特に本人の自宅など居住用不動産を売却する場合には、成年後見人であっても家庭裁判所の事前許可が必要です。
家庭裁判所では、売却の必要性、本人の今後の生活、売却価格の妥当性などが確認されます。
そのため、成年後見制度が関係する不動産売却では、一般的な不動産売却より早い段階から準備を始めることが重要です。
マーキュリーでは、成年後見制度が関係する不動産についても査定・買取のご相談を承っています。家庭裁判所への申立てや成年後見制度の法的手続きについては、司法書士・弁護士などの専門家と連携しながら進めることをおすすめします。





