配偶者居住権を設定した場合でも、固定資産税の納税義務者は原則として土地や建物の所有者です。配偶者居住権を持っているという理由だけで、配偶者が固定資産税の納税義務者になるわけではありません。
ただし、建物については少し注意が必要です。民法では、配偶者居住権を持つ配偶者が「通常の必要費」を負担すると定められています。そのため、建物所有者が固定資産税を納めた場合、その負担分を配偶者へ請求できることがあります。
この記事では、配偶者居住権と固定資産税の関係を中心に、土地と建物での違い、修繕費、相続税評価、登記、売却時の注意点まで順番に解説します。
・固定資産税の納税義務者は、原則として不動産の所有者
・配偶者居住権を持つ配偶者へ直接固定資産税が課税されるわけではない
・ただし、建物の固定資産税は「通常の必要費」として、実質的に配偶者が負担することがある
・納税通知書は基本的に所有者へ届く
・土地と建物では扱いを分けて確認した方がよい
「誰に納税通知書が届くのか」と「最終的に誰が負担するのか」は別の話です。
- 1 配偶者居住権の固定資産税は誰が払う?
- 2 配偶者居住権とは?所有権との違い
- 3 配偶者居住権を取得するための要件
- 4 配偶者居住権のメリット
- 5 配偶者居住権の固定資産税以外の費用は誰が負担する?
- 6 配偶者居住権の固定資産税評価額と相続税評価は別の話
- 7 配偶者居住権はどのように設定する?
- 8 配偶者居住権を取得したら登記した方がよい
- 9 配偶者居住権は原則として配偶者が亡くなるまで続く
- 10 配偶者居住権がある家は売却できる?
- 11 配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い
- 12 配偶者居住権を検討するときに確認したいこと
- 13 不動産相続・配偶者居住権でお悩みならマーキュリーへご相談ください
- 14 配偶者居住権と固定資産税に関するよくある質問
配偶者居住権の固定資産税は誰が払う?
固定資産税を自治体へ納める人と、最終的に費用を負担する人は必ずしも同じではありません。
固定資産税は、原則として毎年1月1日時点で土地・建物の所有者として固定資産課税台帳に登録されている人へ課税されます。
そのため、配偶者居住権を設定し、建物の所有権を子どもが相続した場合は、基本的に建物所有者である子どもが固定資産税の納税義務者になります。
実際にその家へ住んでいるのが配偶者であっても、この点は変わりません。
| 項目 | 原則 |
|---|---|
| 建物の所有者 | 子どもなど |
| 配偶者居住権 | 残された配偶者 |
| 固定資産税の納税義務者 | 建物所有者 |
| 納税通知書 | 原則として所有者へ届く |
| 建物の固定資産税の実質負担 | 配偶者へ請求される場合がある |
なぜ所有者が払った固定資産税を配偶者へ請求できる?
民法1034条では、配偶者居住権を取得した配偶者は「居住建物の通常の必要費」を負担すると定められています。
法務省は、建物の固定資産税について、所有者が納税義務者である一方、通常の必要費として配偶者が負担するため、所有者が納付した固定資産税を配偶者へ請求できると説明しています。
つまり、
↓
所有者が納付
↓
建物分について配偶者へ負担を求めることがある
という流れです。
土地の固定資産税はどうなる?
土地についても、固定資産税の納税義務者は原則として土地の所有者です。
たとえば、子どもが土地と建物を相続し、母親が配偶者居住権を取得した場合、固定資産税の納税通知書は基本的に所有者である子ども側へ届きます。
ただし、民法1034条で明確に定められている「通常の必要費」は居住建物についての規定です。
そのため、土地分を含む固定資産税を実際に誰がどの範囲まで負担するのかについては、遺産分割や当事者間の取り決めも含めて整理しておくと、相続後のトラブルを防ぎやすくなります。
特に土地と建物の所有者が異なる場合や共有名義の場合は、税理士など専門家へ確認すると安心です。
配偶者居住権とは?所有権との違い
配偶者居住権は「家を所有する権利」ではなく、「亡くなった配偶者の家に無償で住み続けるための権利」です。
配偶者居住権は、夫婦の一方が亡くなったとき、残された配偶者が被相続人の所有していた建物へ無償で住み続けるための権利です。
2020年4月1日に施行された改正民法によって創設されました。
従来は、残された配偶者が自宅へ住み続けるために建物の所有権そのものを相続すると、自宅の評価額が大きい分、預貯金などを十分に相続できないことがありました。
配偶者居住権では、建物について、
+
所有する権利=所有権
という形で権利を分けて相続できます。
たとえば自宅の所有権は子どもが取得し、配偶者は配偶者居住権を取得することで、配偶者はその後も自宅へ住み続けることができます。
配偶者居住権と所有権の違い
| 項目 | 配偶者居住権 | 所有権 |
|---|---|---|
| 住む | できる | できる |
| 売却 | できない | できる |
| 第三者へ譲渡 | できない | できる |
| 第三者へ賃貸 | 所有者の承諾が必要 | 原則可能 |
| 相続 | できない | できる |
| 固定資産税の納税義務 | 原則なし | 原則あり |
配偶者居住権を取得するための要件
夫や妻が亡くなれば、自動的に配偶者居住権を取得できるわけではありません。
配偶者居住権を取得するには、主に次の条件を確認します。
- 法律上の配偶者であること
- 相続開始時に被相続人所有の建物へ居住していたこと
- 建物が被相続人の単独所有、または被相続人と配偶者の共有であること
- 遺産分割・遺贈・家庭裁判所の審判などによって配偶者居住権を取得すること
たとえば被相続人が兄弟など第三者と建物を共有していた場合には、原則としてその建物に配偶者居住権を設定できません。
また、内縁関係のパートナーには配偶者居住権は認められません。
法律上の婚姻関係にある配偶者を保護する制度だからです。
配偶者居住権のメリット
自宅に住み続けながら、預貯金など別の財産も相続しやすくなる点が大きなメリットです。
今の自宅に住み続けられる
もっとも分かりやすいメリットは、建物の所有権を相続しなくても住み続けられることです。
子どもが建物を相続した場合でも、配偶者居住権を取得していれば、その権利が続く間は無償で居住できます。
預貯金などを相続しやすくなる
自宅の所有権をすべて配偶者が相続すると、自宅の評価額が大きいため、ほかの財産をあまり相続できなくなる場合があります。
配偶者居住権を利用すると、居住する権利だけを取得し、残った財産をほかの相続人と分けることができます。
老後の生活資金として預貯金を確保したい場合に検討しやすい制度です。
自宅の承継先と配偶者の居住を分けて考えられる
先祖代々の土地・建物を子どもへ承継させたい一方、配偶者にはその家へ住み続けてもらいたいというケースがあります。
このような場合、自宅の所有権を子どもへ、配偶者居住権を配偶者へ取得させる方法があります。
配偶者居住権の固定資産税以外の費用は誰が負担する?
固定資産税だけでなく、修繕費などについても配偶者と所有者で負担関係が分かれます。
| 費用・行為 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 建物の固定資産税 | 所有者が納税し、通常の必要費として配偶者へ請求できる場合がある |
| 通常の修繕 | 配偶者が負担 |
| 日常的な維持管理 | 配偶者が行う |
| 増築・大規模な変更 | 所有者の承諾が必要 |
| 第三者への賃貸 | 所有者の承諾が必要 |
通常の修繕は配偶者が行う
法務省は、配偶者居住権が設定されている建物の修繕について、原則として配偶者が費用を負担して行うと説明しています。
たとえば日常的な使用によって生じた不具合など、建物を維持するための通常の修繕です。
配偶者が必要な修繕を行わない場合には、建物所有者が自ら修繕できることがあります。
勝手に増改築することはできない
配偶者居住権があっても、建物そのものは配偶者の所有物ではありません。
そのため、建物所有者の承諾なく増築や改築を行うことはできません。
大規模なリフォームを予定している場合は、所有者と事前に話し合っておく必要があります。
配偶者居住権の固定資産税評価額と相続税評価は別の話
固定資産税を誰が納めるかと、配偶者居住権を相続税上いくらで評価するかは別の問題です。
配偶者居住権には財産的な価値があるため、相続税を計算するときには評価が必要です。
国税庁では、
- 配偶者居住権
- 配偶者居住権が設定された建物
- 敷地利用権
- 建物敷地の所有権
をそれぞれ評価する方法を定めています。
建物の相続税評価では固定資産税評価額が計算の基礎になりますが、「配偶者居住権を設定すると固定資産税そのものが安くなる」という意味ではありません。
配偶者居住権は必ず相続税対策になるわけではない
配偶者居住権を設定すると、配偶者が取得する財産の評価方法が変わるため、結果として相続税に影響することがあります。
ただし、「配偶者居住権を設定すれば必ず節税になる」と考えるのは避けた方がよいでしょう。
配偶者自身の財産、ほかの相続人、二次相続、小規模宅地等の特例などによって結果は変わります。
節税だけを目的に設定するのではなく、「残された配偶者が安心して暮らせるか」という制度本来の目的も含めて検討することが大切です。
配偶者居住権はどのように設定する?
代表的なのは遺言と遺産分割です。取得した後は登記まで行っておくことが重要です。
遺言で配偶者居住権を遺贈する
自宅の所有者が生前に遺言を作り、配偶者へ配偶者居住権を遺贈する方法があります。
自宅そのものは子どもへ承継させ、配偶者には住み続けてもらいたいという場合に検討できます。
遺産分割協議で取得する
遺言で定められていない場合でも、相続人同士の遺産分割協議によって配偶者居住権を設定できます。
配偶者居住権の価値も相続財産の分け方に関係するため、不動産だけでなく預貯金なども含めて調整します。
話し合いがまとまらない場合
一定の場合には、家庭裁判所の審判によって配偶者居住権を取得できる可能性があります。
相続人同士で争いがある場合は、弁護士などへ相談しながら進めるとよいでしょう。
配偶者居住権を取得したら登記した方がよい
配偶者居住権を第三者へ主張するためには登記が重要です。
配偶者居住権を取得したら、できるだけ早めに登記しておくことをおすすめします。
配偶者居住権の登記をしておけば、その後に建物所有者が第三者へ建物を売却した場合でも、新しい所有者に対して配偶者居住権を主張できます。
配偶者居住権の設定登記は、原則として配偶者と居住建物の所有者が共同で申請します。
なお、配偶者居住権を登記したからといって、建物の所有権が配偶者へ移るわけではありません。
したがって、固定資産税の納税義務者も、配偶者居住権の登記だけを理由に配偶者へ変更されるわけではありません。
配偶者居住権は原則として配偶者が亡くなるまで続く
期間を定めていなければ原則終身です。老人ホームへ移っただけで自動的に消滅するわけではありません。
配偶者居住権の存続期間は、遺産分割協議や遺言などで別の期間を定めていなければ、原則として配偶者が亡くなるまでです。
途中で老人ホームへ入居したり、別の場所へ引っ越したりしたからといって、自動的に消滅するものではありません。
一方、配偶者居住権は第三者へ売却・譲渡することができません。
不要になった場合には、建物所有者との話し合いによって放棄することなどを検討します。
配偶者居住権を放棄すると税金が発生することがある
配偶者居住権を途中で放棄すると、建物所有者側は配偶者居住権という負担のない所有権を取得することになります。
対価を受け取らずに配偶者居住権を放棄した場合などには、その利益について贈与税の問題が生じることがあります。
老人ホームへの入居などを理由に配偶者居住権を消滅させたい場合は、税務面も確認してから進めるとよいでしょう。
配偶者居住権がある家は売却できる?
所有者が建物を売ること自体は考えられますが、配偶者居住権が残った状態では買主が利用できないため、通常の不動産より売却しにくくなります。
配偶者居住権そのものを配偶者が第三者へ売却することはできません。
一方、建物の所有者は所有権を持っているため、所有権を第三者へ譲渡することは考えられます。
ただし、配偶者居住権が登記されている場合、新しい所有者も配偶者の居住を受け入れなければなりません。
そのため、一般の住宅として売却する場合には買主が限られます。
売却を検討する場合は、
- 配偶者居住権を残したまま売却する
- 配偶者と所有者が合意して配偶者居住権を整理する
- 土地・建物をまとめて売却する
など、状況に合わせて方法を検討します。
配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い
名前は似ていますが、取得方法も存続期間も異なります。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 取得 | 遺産分割・遺贈等 | 要件を満たせば法律上発生 |
| 期間 | 原則終身 | 一定の短期間 |
| 登記 | 可能 | できない |
| 第三者への譲渡 | できない | できない |
| 目的 | 長期間の居住を保護 | 相続直後の住まいを保護 |
配偶者短期居住権は、相続開始時に被相続人所有の建物へ無償で住んでいた配偶者を、相続直後に突然退去させないための制度です。
共同相続人間で遺産分割を行うケースでは、建物の帰属が決まる日と相続開始から6か月を経過する日の、いずれか遅い日まで居住できます。
相続放棄をした場合や、建物が第三者へ遺贈された場合などは、建物所有者から配偶者短期居住権の消滅を申し入れられた日から6か月間、居住が保護されます。
元記事にあった「相続から必ず6か月間」とする説明より、ケースを分けて考える必要があります。
配偶者居住権を検討するときに確認したいこと
配偶者居住権は便利な制度ですが、すべての相続で設定した方がよいわけではありません。
次のようなケースでは、配偶者居住権を検討する意味があります。
- 配偶者に現在の家へ住み続けてもらいたい
- 配偶者に預貯金もある程度残したい
- 自宅の所有権は子どもへ承継させたい
- 後妻と前妻の子など、相続人間の関係に不安がある
一方、近い将来自宅を売却する予定がある場合や、配偶者が老人ホームへ移る予定がある場合には、設定後の処分が難しくなることもあります。
固定資産税だけを見るのではなく、相続税、今後の居住予定、売却予定まで含めて判断しましょう。
不動産相続・配偶者居住権でお悩みならマーキュリーへご相談ください
配偶者居住権を設定すると、建物の所有者と実際に住む人が別になるため、将来的な売却や相続で判断が難しくなることがあります。
特に、
- 配偶者居住権が付いた不動産を売却したい
- 子どもが所有者だが配偶者が住んでいる
- 相続後の不動産をどう分けるか決まらない
- 配偶者居住権を設定すべきか迷っている
- 配偶者が老人ホームへ入居するため不動産を整理したい
といった場合は、不動産そのものの価値や売却方法まで含めて考える必要があります。
マーキュリーでは、相続不動産や権利関係が複雑な不動産についてもご相談を承っています。
配偶者居住権を利用すべきかどうかなど税務・法律上の判断が必要な場合は、税理士や弁護士などの専門家と確認しながら進めることが大切です。
配偶者居住権と固定資産税に関するよくある質問
配偶者居住権を登記すると固定資産税の納税義務者も配偶者に変わりますか?
いいえ。配偶者居住権を登記しても建物の所有権が配偶者へ移るわけではないため、固定資産税の納税義務者が自動的に配偶者へ変わることはありません。原則として、その年の1月1日時点の所有者が納税義務者になります。
固定資産税の納税通知書は配偶者と所有者のどちらに届きますか?
原則として固定資産課税台帳上の所有者へ届きます。たとえば子どもが建物を相続し、母親が配偶者居住権を持っている場合は、基本的に所有者である子ども側へ納税通知書が届きます。
建物所有者が固定資産税を払った場合、配偶者へ請求できますか?
建物の固定資産税については、民法上の「通常の必要費」に含まれると考えられています。法務省も、建物所有者が固定資産税を納付した場合には、その分を配偶者へ請求できると説明しています。
配偶者居住権を設定すると固定資産税は安くなりますか?
配偶者居住権を設定したことだけを理由に、固定資産税そのものが安くなる制度ではありません。配偶者居住権は相続税上は財産価値を評価しますが、固定資産税とは別の税金です。
配偶者居住権を放棄したら、その年の固定資産税の納税義務者も変わりますか?
配偶者居住権を放棄しても、もともと配偶者居住権者は固定資産税の所有者としての納税義務者ではありません。固定資産税は原則として1月1日時点の所有者に課税されるため、配偶者居住権の消滅だけで納税義務者が切り替わるわけではありません。
配偶者居住権のある家を子どもが相続した場合、子どもは自由に売却できますか?
所有権を持つ子どもが売却すること自体は考えられますが、登記された配偶者居住権は新しい所有者にも主張できます。そのため、買主が自由に利用できない状態となり、通常の自宅より売却しにくくなる可能性があります。売却する場合は、配偶者居住権をどう扱うかも含めて検討する必要があります。





