不動産を売る、買う、貸す、借りる、相続する。こうした場面では、民法のルールが土台になります。
ただし、不動産取引のために民法を最初から最後まで覚える必要はありません。実務で特に関係するのは、契約の成立、契約不適合責任、所有権と登記、共有、借地権、抵当権、相続といった部分です。
この記事では、不動産取引で押さえておきたい民法のポイントを、売却・相続・借地などの具体的な場面に置き換えて解説します。
不動産と民法で特に重要なのは、次の6つです。
① 売買契約がいつ成立するか
② 売却後に不具合が見つかった場合の契約不適合責任
③ 所有権・共有・登記の扱い
④ 借地権・地上権など土地を利用する権利
⑤ 住宅ローンと抵当権
⑥ 相続・遺産分割・相続登記
実際の取引では、民法に加えて借地借家法・区分所有法・不動産登記法なども確認する必要があります。
- 1 不動産と民法はどのように関係している?
- 2 不動産の売買契約はいつ成立する?
- 3 売却後に不具合が見つかったときの「契約不適合責任」
- 4 勘違いや詐欺で契約した場合はどうなる?
- 5 不動産の所有権と登記は何が違う?
- 6 共有不動産にも民法のルールがある
- 7 土地を借りる「賃借権」と「地上権」の違い
- 8 借地権・底地では民法だけでなく借地借家法も重要
- 9 住宅ローンで重要な「抵当権」とは
- 10 不動産売却で民法が関係しやすい相談例
- 11 相続した不動産にも民法が関係する
- 12 不動産では民法だけでなく「特別法」も確認する
- 13 不動産の権利関係に不安がある場合は売却前に整理する
- 14 不動産と民法に関するよくある質問
不動産と民法はどのように関係している?
民法は不動産取引の基本ルールです。ただし、借地・マンション・登記などでは特別法も一緒に確認します。
民法は、個人や会社同士の契約、財産、相続などについて定める基本的な法律です。
| 不動産の場面 | 関係する主なルール |
|---|---|
| 土地・建物を売買する | 契約、意思表示、契約不適合責任、所有権など |
| 不動産を共有する | 共有持分、管理・変更、共有物分割など |
| 土地を借りる | 賃貸借、地上権、借地権など |
| 住宅ローンを利用する | 抵当権、債権・債務など |
| 不動産を相続する | 相続人、遺産分割、相続放棄、遺留分など |
重要なのは条文を暗記することではなく、自分が行おうとしている取引で、どのルールが問題になるのかを把握することです。
不動産の売買契約はいつ成立する?
売買契約は原則として売主と買主の意思が一致すれば成立します。ただし、不動産取引では条件が多いため、契約書で内容を明確にするのが通常です。
民法上、売買は売主が財産権を移転することを約束し、買主が代金を支払うことを約束することで成立します。
たとえば、売主が「この土地を3,000万円で売る」と申し込み、買主がその条件で購入すると承諾すれば、売買について意思が一致します。
もっとも、不動産は金額が大きく、確認すべき条件も多いため、口約束だけで進めるのは現実的ではありません。
- 売買価格
- 手付金
- 決済・引渡し日
- 所有権移転の時期
- 契約解除の条件
- 契約不適合責任
- 抵当権の抹消
こうした条件を書面にしておくことで、売主・買主双方の認識違いを防ぎやすくなります。
不動産売却の契約から決済までの流れについては、不動産売却の流れ・費用・税金までわかる完全ガイドも参考にしてください。
売却後に不具合が見つかったときの「契約不適合責任」
引き渡した不動産が契約内容に適合していない場合、売主が契約不適合責任を負うことがあります。何を「契約内容」としたかが重要です。
不動産売買では、引渡し後に雨漏り、設備の故障、土壌や建物の問題などが見つかることがあります。
そのとき問題になるのが、民法の契約不適合責任です。
買主は、引き渡された目的物が種類・品質・数量などについて契約内容に適合していない場合、条件に応じて追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除などを検討できることがあります。
ただし、「不具合が見つかれば必ず売主が責任を負う」という単純な話ではありません。
売買契約書にどのような状態で引き渡すと定めたのか、売主が何を告知したのか、免責に関する特約があるかなどによって判断が変わります。
中古不動産を売却するときは、物件状況を正確に伝え、契約内容と告知内容を一致させることが大切です。
勘違いや詐欺で契約した場合はどうなる?
意思表示に勘違い・詐欺・強迫などの問題がある場合、契約の有効性や取消しが問題になります。
| 種類 | 簡単にいうと | 基本的な扱い |
|---|---|---|
| 心裡留保 | 本心と違うことを分かったうえで表示する | 原則有効。相手方が真意でないことを知っていた等の場合は無効 |
| 虚偽表示 | 相手と示し合わせて架空の契約をする | 当事者間では原則無効 |
| 錯誤 | 重要な勘違いをして意思表示する | 一定の要件で取消し可能 |
| 詐欺・強迫 | 騙された、脅されたことで意思表示する | 一定の要件で取消し可能 |
たとえば売買価格の桁を誤って入力したケースや、重要な事実について騙されて契約したケースなどでは、民法上の意思表示のルールが問題になることがあります。
ただし、第三者が関係している場合や本人に重大な過失がある場合など、事情によって扱いは変わります。実際にトラブルになっている場合は、自己判断せず弁護士などへ相談しましょう。
不動産の所有権と登記は何が違う?
所有権を取得することと、その権利を第三者へ主張するための登記は別の問題です。不動産では登記が非常に重要です。
不動産を売買すると、契約内容に応じて所有権が売主から買主へ移ります。
一方、民法177条では、不動産に関する物権の得喪・変更について、登記をしなければ第三者へ対抗できないとされています。
そのため、実務では売買代金の決済と同時に所有権移転登記を申請するのが一般的です。
登記事項証明書では、主に次の内容を確認できます。
- 表題部:所在地、地積、床面積、構造など
- 権利部(甲区):所有権に関する情報
- 権利部(乙区):抵当権・地上権など所有権以外の権利
2026年4月から住所・氏名変更登記も義務化
不動産登記法の改正により、2026年4月1日から、不動産の所有者は氏名や住所が変わった場合、原則として変更日から2年以内に変更登記を申請することが義務化されています。
相続登記だけでなく、所有者の住所変更なども登記上の重要な手続きになっています。
共有不動産にも民法のルールがある
共有不動産では、自分の持分だけを売る場合と、不動産全体を売る場合で必要な同意が違います。
相続や夫婦での購入などによって、一つの不動産を複数人で共有することがあります。
共有者は、自分の共有持分そのものを処分できます。一方、不動産全体を第三者へ売却するには、原則として共有者全員の合意が必要です。
また、2023年4月施行の民法改正では、共有物の管理や軽微な変更、所在等不明共有者がいる場合の手続きなどが見直されました。
所在等が分からない共有者がいる場合でも、裁判所の手続きを利用して共有関係を整理できる制度が設けられています。
共有持分の売却について相談したい方は、共有持分の買取・売却相談もご覧ください。
土地を借りる「賃借権」と「地上権」の違い
土地賃借権は債権、地上権は物権です。借地権付き建物の売却では、どちらの権利なのかを確認することが重要です。
| 項目 | 土地賃借権 | 地上権 |
|---|---|---|
| 権利の種類 | 債権 | 物権 |
| 土地利用 | 賃貸借契約に基づく | 地上権そのものに基づく |
| 譲渡 | 原則として地主の承諾が必要 | 原則として地主の承諾なく譲渡可能 |
| 対抗関係 | 借地借家法上の対抗制度が関係する場合がある | 登記による対抗が基本 |
借地権付き建物を第三者へ売却し、土地賃借権も譲渡する場合は、原則として地主の承諾が必要です。
地主の承諾が得られない場合でも、一定の条件で裁判所へ地主の承諾に代わる許可を申し立てる制度があります。
借地権の譲渡と承諾料については、借地権の承諾料はいくら?譲渡・建替え・増改築の相場と計算方法も参考にしてください。
借地権・底地では民法だけでなく借地借家法も重要
借地権では民法に加えて借地借家法が適用されます。更新、譲渡、建替え、地代などは特別法まで確認する必要があります。
建物を所有する目的で土地を借りている場合は、民法だけでなく借地借家法が重要になります。
- 借地契約の更新
- 地主による更新拒絶
- 借地権の譲渡
- 建替え・増改築
- 地代の増減
- 借地権の対抗力
借地権や底地は、所有権の不動産より権利関係が複雑になりやすいため、売却前に契約書や登記を確認することが大切です。
地主から借地の返還を求められた場合については、地主から借地を返してほしいと言われた場合の対処法も参考にしてください。
住宅ローンで重要な「抵当権」とは
抵当権付きの不動産でも売却自体はできますが、通常は決済時までに抵当権を抹消できる状態にして買主へ引き渡します。
住宅ローンを利用して不動産を購入すると、多くの場合、金融機関が土地や建物に抵当権を設定します。
抵当権は、ローンなどの返済ができなくなった場合に、債権者が担保不動産から優先的に弁済を受けるための権利です。
抵当権が付いた不動産を売ること自体は禁止されていません。ただし、抵当権を残したままでは買主にとって大きなリスクになります。
そのため一般的な売買では、売却代金などでローンを完済し、所有権移転と合わせて抵当権抹消登記を進めます。
なお、住宅ローンを完済しても抵当権の登記が自動的に消えるわけではありません。
住宅ローンが残っている家の売却については、住宅ローンが残る家を売却する方法も参考にしてください。
不動産売却で民法が関係しやすい相談例
法律の知識だけで解決するのではなく、不動産の価格や売却可能性まで一緒に整理することで具体的な対応を決めやすくなります。
共有者の一人が売却に反対している
相続した不動産を兄弟で共有しているものの、一人だけ売却に同意しないケースです。
不動産全体を売却するには原則として共有者全員の同意が必要ですが、自分の共有持分のみを処分する方法や、共有物分割を検討する方法があります。
借地権を売りたいが地主の承諾を得られない
土地賃借権の譲渡では地主の承諾が問題になります。
承諾条件を調整する方法のほか、一定の場合には裁判所への許可申立てを検討することもあります。
相続した不動産に抵当権や複雑な権利が残っている
相続した不動産に抵当権が残っている、共有者が多い、借地上の建物であるといった場合は、売却前に権利関係を整理する必要があります。
マーキュリーでは、借地権・底地・共有持分・土地など、権利関係を含む不動産の買取実績を公開しています。
相続した不動産にも民法が関係する
不動産も相続財産です。相続人・遺産分割・相続放棄に加えて、現在は相続登記の期限にも注意する必要があります。
人が亡くなると相続が開始し、被相続人が所有していた土地や建物も相続財産になります。
誰が相続人になる?
配偶者は常に相続人となり、配偶者以外には次の順位があります。
| 順位 | 相続人 |
|---|---|
| 第1順位 | 子などの直系卑属 |
| 第2順位 | 父母・祖父母などの直系尊属 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 |
第2順位は第1順位の相続人がいない場合、第3順位は第1・第2順位の相続人がいない場合に相続人となります。
法定相続分どおりに分けなければならないわけではない
相続人が複数いる場合、民法には法定相続分があります。
| 相続人の組み合わせ | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者+子 | 配偶者1/2・子全体で1/2 |
| 配偶者+直系尊属 | 配偶者2/3・直系尊属全体で1/3 |
| 配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者3/4・兄弟姉妹全体で1/4 |
ただし、遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、必ずしも法定相続分と同じ割合で分ける必要はありません。
不動産は現金のように分けにくいため、一人が取得する、共有にする、売却して現金を分けるなどの方法を検討します。
相続した実家の売却については、実家を売却・処分する方法|相続登記から空き家対策までも参考にしてください。
相続登記は原則3年以内
2024年4月1日から相続登記が義務化されています。
相続によって不動産を取得したことを知った相続人は、原則としてその取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
2024年4月1日より前に発生した相続も対象となるため、相続したまま名義を変更していない不動産がある場合は注意が必要です。
借金が多い場合は相続放棄も検討する
相続では、不動産や預金だけでなく借金などの債務も引き継ぐことがあります。
相続人は、相続の開始があったことを知った時から原則3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄を検討します。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 単純承認 | プラス・マイナスの財産を原則として承継する |
| 限定承認 | 相続によって得た財産の範囲で債務を負担する |
| 相続放棄 | 相続人としての立場を放棄する |
限定承認は、共同相続人がいる場合には原則として共同相続人全員で行います。
不動産では民法だけでなく「特別法」も確認する
民法は基本ルールですが、不動産の種類や取引内容によって別の法律が優先・補充して適用されます。
| 法律 | 主に関係する内容 |
|---|---|
| 借地借家法 | 借地権、建物賃貸借、更新など |
| 区分所有法 | マンションの所有・管理・建替えなど |
| 不動産登記法 | 所有権・抵当権・相続・住所変更などの登記 |
| 宅地建物取引業法 | 不動産会社による重要事項説明や媒介など |
「民法ではこう書いてあるから」と一つの法律だけで判断すると、実際の取引では結論が変わることがあります。
不動産の権利関係に不安がある場合は売却前に整理する
法律上の問題があるからといって、必ず売却できないわけではありません。まず権利関係と不動産価格を確認し、取れる方法を整理します。
不動産を売却しようとしたときに、
- 共有者と意見が合わない
- 借地権の地主承諾が取れない
- 相続登記が終わっていない
- 抵当権が残っている
- 権利証や契約書が見つからない
といった問題が見つかることがあります。
このような場合でも、状況を確認したうえで売却方法や権利調整を検討できるケースがあります。
マーキュリーでは、借地権・底地・共有持分・相続不動産など、一般的な所有権不動産より権利関係が複雑な不動産についても売却・買取のご相談を受け付けています。
まずは「現在の不動産がいくらになるのか」「売却するために何を整理する必要があるのか」を確認するところからご相談ください。
不動産と民法に関するよくある質問
売買契約書に書かれていないことは民法のルールが適用されますか?
契約書に定めがない事項について、民法などの法律が判断の基準になることがあります。ただし、不動産取引では特約や借地借家法などの特別法が関係する場合もあるため、個別の契約内容を確認する必要があります。
不動産を買ったのに登記をしないと所有権はなくなりますか?
登記をしていないことだけで直ちに所有権がなくなるわけではありません。ただし、不動産の物権変動を第三者へ主張するためには登記が重要です。売買では通常、決済と同時に所有権移転登記を申請します。
中古不動産の契約不適合責任を特約で免責することはできますか?
当事者間の契約で責任範囲を定めたり、一定の免責特約を設けたりする場合があります。ただし、売主が知りながら告げなかった事実など、特約があっても責任を免れない場合があります。契約内容と告知内容を慎重に確認してください。
不動産の住所変更登記をしていない場合、いつまでに手続きが必要ですか?
2026年4月1日から住所・氏名変更登記が義務化されており、変更日から原則2年以内に申請する必要があります。施行前に変更している場合の期限などは個別に確認してください。
民法と借地借家法のルールが違う場合はどちらを確認すればいいですか?
借地や建物賃貸借については、民法の一般ルールに加えて借地借家法という特別法が適用されます。契約更新や対抗力など、借地借家法に特別な定めがある事項については、そのルールまで確認する必要があります。
隣地から越境してきた木の枝は自分で切れますか?
民法改正により、一定の場合には越境された土地の所有者が自ら枝を切り取れる仕組みが設けられています。ただし、催告や所有者不明など法律上の要件があるため、無条件に切ってよいわけではありません。実際に対応する前に状況を確認してください。





