
借地権を売却しようと地主に相談したところ、「第三者への譲渡は認めない」と言われてしまうことがあります。
また、借地上の建物を建て替えたい、増改築したいという場合にも、契約内容によっては地主の承諾が必要です。
では、地主がどうしても承諾してくれなければ、借地権の売却や建物の増改築を諦めなければならないのでしょうか。
このようなときに利用できる可能性があるのが、「借地非訟」という裁判所の手続きです。
例えば借地権を第三者へ譲渡するケースでは、一定の要件を満たせば、地主の承諾に代わる許可を裁判所に求めることができます。一般に「代諾許可」と呼ばれるものです。
ただし、地主から承諾を得られないからといって、すぐに借地非訟へ進むのがよいとは限りません。地主と条件を整理して話し合うことで解決できるケースもあります。
この記事では、借地非訟とはどのような制度なのか、どのような場合に利用できるのか、代諾許可や地主の介入権、手続きの流れ、費用や期間について順番に解説します。
借地権そのものの売却方法から確認したい方は、借地権は売却できる?借地権者必見!!も参考にしてください。
- 1 借地非訟とは?地主の承諾に代わる判断を裁判所に求める手続き
- 2 借地非訟はどのようなときに利用する?
- 3 借地非訟には6種類の手続きがある
- 4 地主が借地権の譲渡を承諾しない場合はどうなる?
- 5 代諾許可とは?地主が承諾しなくても売却できる場合がある
- 6 地主の「介入権」とは?
- 7 借地非訟手続きの流れ
- 8 借地非訟にかかる期間はどのくらい?
- 9 借地非訟にはどのような費用がかかる?
- 10 借地非訟を申し立てる前に、まず地主との話し合いを検討する
- 11 借地非訟中でも借地権を売却できる?
- 12 マーキュリーが借地非訟を伴う借地権について相談を受けた事例
- 13 借地非訟を伴う借地権の売却もマーキュリーへご相談ください
- 14 借地非訟に関するよくある質問
- 15 まとめ|地主が承諾しない場合でも借地権の売却を諦める必要はない
借地非訟とは?地主の承諾に代わる判断を裁判所に求める手続き
借地非訟とは、借地契約に関する一定の事項について地主と借地権者の間で合意できない場合に、裁判所へ申立てを行い、許可や借地条件の変更などを求める手続きです。
例えば、土地を借りて建物を所有している借地権者が、その建物と借地権を第三者へ売却したいとします。
土地の賃借権を第三者へ譲渡する場合は、原則として地主の承諾が必要です。
しかし、地主が承諾しない場合でも、借地権を取得する人に土地を使用させても地主に不利となるおそれがないなど、法律上の要件を満たしていれば、裁判所が地主の承諾に代わる許可を出す場合があります。
この仕組みが、借地借家法第19条に基づく土地賃借権の譲渡・転貸許可です。
「裁判所を利用する」と聞くと、地主と借地権者のどちらが正しいのかを争う通常の裁判をイメージするかもしれません。
借地非訟は、一般的な訴訟とは性質が異なります。当事者間でまとまらない借地条件などについて、裁判所がさまざまな事情を考慮して判断する手続きです。
東京地方裁判所でも、借地非訟を「増改築をしたいが地主が承諾しない」「借地上の建物を第三者へ譲渡したい」といった問題を解決するための手続きとして案内しています。詳しくは東京地方裁判所「借地非訟事件について」をご確認ください。
借地非訟はどのようなときに利用する?
借地非訟というと、「借地権を売りたいのに地主が譲渡を認めてくれない場合」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
実際には、借地権の譲渡以外にも利用される場面があります。
- 借地権を第三者へ売却したいが、地主が譲渡を承諾しない
- 借地上の建物を増築・改築したいが、地主が承諾しない
- 木造から鉄筋コンクリート造などへ建物構造を変更したい
- 更新後に建物を建て替えたい
- 競売・公売で借地権付き建物を取得したが、地主の承諾を得られない
ただし、どのケースでも借地非訟を申し立てれば必ず希望どおりの結果になるわけではありません。
土地の状況、借地契約の内容、これまでの経緯、地主に与える影響などを踏まえて裁判所が判断します。
借地非訟には6種類の手続きがある
東京地方裁判所では、借地非訟事件として取り扱うものを主に次の6種類に分けています。
| 手続き | 主な内容 |
|---|---|
| 借地条件変更申立て | 建物の種類・構造・規模・用途など、契約で定めた借地条件を変更したい場合 |
| 増改築許可申立て | 増改築禁止特約などがあり、地主から増改築の承諾を得られない場合 |
| 更新後の建物再築許可申立て | 一定の借地契約について、更新後に建物を再築する場合 |
| 土地賃借権譲渡・土地転貸許可申立て | 借地権を第三者へ譲渡・転貸したいが、地主が承諾しない場合 |
| 競売・公売に伴う土地賃借権譲受許可申立て | 競売や公売で借地権付き建物を取得した人が、土地賃借権の譲受けについて許可を求める場合 |
| 地主による建物・土地賃借権譲受申立て | 借地権者が第三者への譲渡許可を求めた際などに、地主自身が建物と借地権を取得したい場合 |
以前は借地非訟について「4種類」と紹介している資料もありますが、東京地方裁判所の現在の案内では上記のように6種類に整理されています。
各手続きの正式な申立書については、東京地方裁判所「借地非訟事件(書式例)」でも確認できます。
地主が借地権の譲渡を承諾しない場合はどうなる?
借地非訟の中でも、実際の売却で問題になりやすいのが、借地権の譲渡承諾です。
借地権付き建物を第三者へ売却すると、建物だけでなく土地を利用する権利も新しい買主へ移ることになります。
土地の賃借権については地主との契約関係があるため、原則として地主の承諾が必要です。
通常は、売却前に地主へ事情を説明し、買主の情報や譲渡条件、譲渡承諾料などについて話し合います。
借地権を譲渡するときの承諾料については、承諾料の計算方法!承諾が必要なケースを交えて解説で詳しく説明しています。
それでも地主から承諾を得られず、第三者へ譲渡しても地主に不利となるおそれがないと考えられる場合には、借地借家法第19条に基づいて裁判所へ譲渡許可を申し立てる方法があります。
代諾許可とは?地主が承諾しなくても売却できる場合がある
地主の承諾に代わって裁判所が借地権の譲渡を許可することを、一般に「代諾許可」と呼びます。
地主が「売却には一切応じない」と言っている場合でも、代諾許可が認められれば、地主の承諾を得た場合と同じように借地権を譲渡できる可能性があります。
ただし、単に「地主が嫌だと言っているから裁判所が代わりに許可する」という制度ではありません。
裁判所は、借地権の残存期間、借地に関するこれまでの経緯、譲渡を必要とする事情、譲受人の状況など、さまざまな事情を考慮して判断します。
また、許可をする際に、地主への金銭の支払いなどを条件とすることもあります。
そのため、借地非訟を前提に売却を考える場合には、売却価格だけでなく、承諾料に相当する金銭や弁護士費用なども含めて資金計画を考える必要があります。
地主の「介入権」とは?
借地権の譲渡許可を申し立てる場合に、必ず知っておきたいのが地主の「介入権」です。
借地権者が第三者への譲渡について裁判所へ許可を求めた場合、地主には「その第三者へ売るのであれば、自分が建物と借地権を取得したい」と申し立てる制度があります。
これが一般に介入権と呼ばれているものです。
介入権が認められると、当初予定していた第三者ではなく、地主が裁判所の定める相当な対価で建物と借地権を取得することがあります。
つまり借地非訟では、「裁判所の許可さえ取れれば、最初に決めた買主へ必ず売却できる」とは限りません。
地主が介入権を行使する可能性も考えたうえで、売買契約や売却スケジュールを組む必要があります。
借地非訟手続きの流れ
借地非訟の具体的な進み方は事件の内容によって異なりますが、おおまかな流れは次のとおりです。
1.まず地主と話し合う
地主から最初に承諾を断られたからといって、すぐに借地非訟へ進む必要があるとは限りません。
なぜ地主が承諾しないのかを確認すると、過去の更新料や地代、建替え承諾料など、別の問題が原因になっていることがあります。
条件を整理して改めて提案することで、借地非訟を行わずに譲渡承諾を得られることもあります。
地主との間で起こりやすい問題については、借地権のトラブル!様々なトラブルが潜んでいますも参考にしてください。
2.管轄の裁判所へ申立てを行う
話し合いで解決できない場合は、借地の所在地を管轄する地方裁判所へ申立てを行います。
当事者間の合意がある場合には簡易裁判所へ申し立てられる場合もあります。
東京地方裁判所によると、申立書のほか、土地・建物の固定資産評価証明書、賃貸借契約書、住宅地図など、事件に応じた資料が必要になります。
3.審問期日が開かれる
申立て後、裁判所が審問期日を指定し、借地権者と地主それぞれから事情や意見を確認します。
借地非訟の審問は原則として非公開です。
4.鑑定委員会が意見を出す
借地非訟では、必要に応じて鑑定委員会の意見が判断材料になります。
東京地方裁判所では、弁護士、不動産鑑定士、建築士を含む有識者などから事件ごとに鑑定委員を指定するとしています。
鑑定委員会は現地調査や資料の確認などを行い、承諾料に相当する金額や、地主が介入権を行使した場合の適正な対価などについて意見を提出します。
5.和解または裁判所の決定
借地非訟では、必ず最後まで裁判所の判断を待つわけではありません。
手続きの途中で裁判所から和解を勧められ、地主と借地権者が条件に合意することもあります。
和解に至らない場合などは、最終的に裁判所が申立てについて決定します。
東京地方裁判所が公開している詳しい流れについては、借地非訟事件手続の流れもご確認ください。
借地非訟にかかる期間はどのくらい?
借地非訟について、「申立てから何か月で終わりますか?」という質問がありますが、一律に何か月と決めることはできません。
地主と借地権者の主張に大きな差がある場合、鑑定委員会による調査が必要な場合、和解協議を行う場合など、事件によって期間は変わります。
東京地方裁判所では、必要書類を確認した後、おおむね1か月から1か月半後に第1回審問期日を指定すると案内しています。
また、鑑定委員会から意見書が提出された後にも、1か月から1か月半程度で審問期日を設けるとしています。
そのため、売却時期が決まっている場合には、地主との交渉や借地非訟に必要となる期間を考慮し、余裕を持って準備を始めることが重要です。
借地非訟にはどのような費用がかかる?
借地非訟を行う場合は、申立手数料や裁判所へ納める郵便切手などが必要です。
弁護士へ手続きを依頼する場合には、別途弁護士費用も必要になります。
さらに、借地権の譲渡や増改築などを認める際に、裁判所から地主への金銭の支払いを条件とされる場合があります。
一般の譲渡承諾では借地権価格の10%程度が一つの目安として語られることがありますが、法律で一律に10%と決められているわけではありません。
借地権の譲渡承諾料や建替え・増改築承諾料については、承諾料の計算方法!承諾が必要なケースを交えて解説もあわせてご覧ください。
借地非訟を申し立てる前に、まず地主との話し合いを検討する
借地非訟は、地主との話し合いがまとまらない場合に利用できる重要な制度です。
一方で、借地非訟を利用しなくても、地主が承諾しない理由を整理することで解決できる場合があります。
実際にマーキュリーへ寄せられる相談でも、最初は「借地権の譲渡は認めない」と言われていたものの、地主へ事情を確認すると、過去の更新料や地代など別の問題が背景にあったケースがあります。
そのような場合、譲渡承諾だけを切り離して交渉するのではなく、これまでの経緯を含めて条件を整理することで話が進むことがあります。
地主から借地権の返還を求められている場合は、地主から借地を返してほしいと言われたら?明け渡しの条件を解説も参考にしてください。
借地非訟中でも借地権を売却できる?
借地非訟を利用して借地権を第三者へ譲渡する場合、誰に売却するのかも重要になります。
地主の承諾が得られていない借地権は、一般的な所有権の不動産と比べて売却のハードルが高くなります。
買主側からすると、購入前に借地非訟の手続きが必要であり、地主との関係や譲渡条件が確定していない状態だからです。
また、譲渡許可の申立てでは、具体的な譲受予定者が重要になります。
そのため、借地非訟を視野に入れて借地権を売却するのであれば、借地権や底地の取引に慣れた不動産会社へ早い段階で相談しておくことが大切です。
地主との関係が良くない借地権の売却については、借地権を地主に買い取ってもらう方法とは?流れや注意点を解説も参考になります。
マーキュリーが借地非訟を伴う借地権について相談を受けた事例
過去には、借地権者が借地権付き建物の売却を希望していたものの、地主から譲渡承諾を得られない案件について、弁護士の方からマーキュリーへご相談いただいたことがあります。
借地非訟を進めるためには、法律上の手続きだけでなく、売却先となる買主や売買条件についても検討する必要があります。
そこでマーキュリーが借地権の買取を検討し、借地非訟の経験がある弁護士が借地権者の代理人として手続きを進めました。
その後、裁判所から地主の承諾に代わる許可が認められ、売却へ進むことができました。
このように、借地非訟が必要な案件では、不動産の売買と法律上の手続きを分けて考えるのではなく、それぞれの専門家が連携して進めることが重要です。
借地非訟を伴う借地権の売却もマーキュリーへご相談ください
地主から譲渡承諾を得られない借地権は、一般的な不動産会社では取り扱いが難しい場合があります。
理由は、売却までに地主との条件調整が必要となり、場合によっては借地非訟まで見据えて取引を組み立てる必要があるためです。
マーキュリーでは、借地権・底地をはじめ、権利関係が複雑な不動産についてもご相談を承っています。
地主との法律上の手続きについて代理人が必要な場合は弁護士が対応することになりますが、不動産会社としては、物件の査定や買取条件の検討、売却方法の整理などを行うことができます。
「地主から譲渡を断られた」「買主が見つからない」「借地非訟を検討しているが、売却先をどうすればよいか分からない」といった場合も、一度ご相談ください。
借地非訟に関するよくある質問
地主が借地権の売却を承諾しない場合でも売れますか?
地主が承諾しない場合でも、一定の要件を満たせば、裁判所へ土地賃借権譲渡・土地転貸許可の申立てを行い、地主の承諾に代わる許可を得られる可能性があります。
ただし、必ず許可されるわけではなく、地主との交渉で解決できる場合もあります。
借地非訟と通常の裁判は何が違いますか?
借地非訟は、通常の訴訟のように一方の権利侵害について勝ち負けを争うことを中心とした制度ではありません。
借地条件の変更や譲渡・増改築の許可など、当事者間でまとまらない事項について、裁判所がさまざまな事情を考慮して判断する手続きです。
借地非訟は自分でも申し立てられますか?
本人が申し立てることは可能です。
ただし、申立書や証拠資料の準備、地主側への対応、売却を伴う場合の条件整理などが必要になります。
代理人へ依頼する場合、東京地方裁判所の案内では代理人は原則として弁護士に限られます。複雑な案件では弁護士へ相談することをおすすめします。
借地非訟にはどのくらいの期間がかかりますか?
事件の内容によって異なります。
地主・借地権者双方の主張、鑑定委員会による調査、和解協議の有無などによって期間が変わるため、「必ず半年で終わる」といった一律の目安で考えない方がよいでしょう。
借地非訟を申し立てれば必ず代諾許可が出ますか?
必ず認められるわけではありません。
裁判所が借地に関するこれまでの経緯や譲渡の必要性、譲受予定者の状況、地主への影響などを考慮して判断します。
地主が介入権を使ったらどうなりますか?
地主が介入権を行使し、裁判所がこれを認めた場合には、第三者へ売却する予定だった借地権付き建物を地主が相当な対価で取得することがあります。
そのため、借地非訟を前提とする売却では、介入権が行使される可能性も考えて売買契約を組み立てる必要があります。
借地非訟をする前に地主と交渉した方がよいですか?
可能であれば、まず話し合いによる解決を検討することをおすすめします。
地主が承諾しない背景に、譲渡承諾料だけでなく、地代や更新料、これまでの借地関係への不満などがある場合もあります。
条件を整理することで、借地非訟を行わず解決できることもあります。
まとめ|地主が承諾しない場合でも借地権の売却を諦める必要はない
借地非訟とは、借地権の譲渡や増改築、借地条件の変更などについて地主との合意が得られない場合に、裁判所へ許可や条件変更などを求める手続きです。
特に借地権を第三者へ売却したいにもかかわらず地主が譲渡を承諾しない場合には、一定の要件を満たせば、裁判所から地主の承諾に代わる許可を得られる可能性があります。
一方で、借地非訟には地主の介入権があり、申立てをすれば必ず予定していた第三者へ売却できるわけではありません。
また、借地非訟には時間や費用もかかるため、最初から裁判所での手続きを前提にするのではなく、まず地主が承諾しない理由を確認し、話し合いによる解決ができないか検討することも大切です。
それでも解決が難しい場合は、借地非訟に詳しい弁護士と、借地権の売買に慣れた不動産会社の双方へ相談しながら進めるとよいでしょう。
マーキュリーでは、地主から譲渡承諾を得られていない借地権や、地主との関係に問題を抱えている借地権についても、物件の状況を確認したうえで売却・買取方法をご提案しています。





