立ち退き

立ち退きの正当事由とは?賃借人の過失による正当事由

立ち退きの正当事由とは?外的要因と賃借人の過失による正当事由を解説

借家や借地として貸している家や土地に「新しいマンション」や「マイホーム」などを建築したい場合は、立ち退きを求める必要があります。
しかし、賃借人に立ち退きを求めるためには「正当な事由」がないといけません。いつまでも立ち退きができなければ、希望の資産活用ができなくなります。
そこでこの記事では、立ち退きの求められる正当事由について詳しく解説します。外的要因や賃借人の過失によって「正当事由」が認められるケースがあるため、ぜひこの記事で確認しておきましょう。

立ち退きの正当事由とは?

立ち退きの正当事由とは、賃貸物件の貸主が賃借人に対して退去を求める際に「法的に認められる理由」のことを指します。本来、賃貸借契約は、賃借人の居住権を保護するために強固に守られていますが、正当な理由があれば契約解除や退去を求めることが可能です。これにより、貸主と賃借人の権利や利益のバランスよく保てます。

正当事由になりうる具体的な内容には、以下があげられます。

  • 建物の老朽化や安全性の問題による立ち退き
  • 貸主自身やその家族の使用による立ち退き
  • 賃借人の契約違反による立ち退き

たとえば、貸主が自身の住居として使用するために建物を必要とする場合、自己使用が正当事由と認められることがあります。
また、建物が老朽化し、安全性に問題がある場合も正当事由に該当します。

正当事由が認められるためには、裁判所がその必要性や合理性を慎重に判断します。
特に「自己使用」の場合、貸主の生活状況や代替物件の有無などが考慮されるため注意しましょう。
また、賃借人に対する配慮も求められ、退去に伴う補償金(立ち退き料)の支払いが必要となることも多いのが現実です。
立ち退きの正当事由について理解を深めるためには、過去の判例を参考にすることが有益です。
これにより、具体的な条件や判断基準を把握できます。また、複雑な法律用語や手続きについても、専門家の助言を得ることでより確実に理解することが可能です。
このように、立ち退きの正当事由は貸主の権利保護のために重要な役割を果たしますが、賃借人の権利も同様に重視されるため、双方のバランスを取ることが求められます。

立ち退きを求める主な正当事由

借地契約と借家契約のそれぞれにおいて、賃貸の立ち退きが認められる正当な理由があります。ここでは、詳しく解説します。

借地の場合

借地契約は、土地を借りる契約です。一般的には借地権者(賃借人)が土地を借りて、居住用の建物を建てます。
立ち退きの正当な理由としては、契約に定められた期間が終了した場合が挙げられます。
借地契約では一定の期間が定められ、賃貸借契約の期間が終了すると、原則として契約が終了し、賃借人は土地を明け渡さなければなりません。
ただし、契約の更新が可能な場合もあり、更新条件については契約書に明記されているため確認することが重要です。
また、借地契約には解約条件が定められている場合もあります。
たとえば、借地権者(賃借人)が契約違反を犯した場合や、土地の利用目的が変更された場合など、契約に違反する行為があった場合には、地主(貸主)が立ち退きを求めることが可能です。

借家の場合

借家契約は、建物を借りる契約です。建物全体や部屋の一部を借りることが一般的といえます。
借家契約における立ち退きの正当な理由としては、以下が挙げられます。

  • 賃貸人による正当な理由
  • 賃借人の契約違反

たとえば、賃貸人が自らの居住や事業のために物件を使用する必要がある場合、正当な理由となることがあります。
ただし、賃借人の生活への影響や他の適当な住居の提供状況なども考慮されます。
また、建物が老朽化しており、修繕や改築が必要な場合や取り壊しが予定されている場合も、立ち退きの正当な理由です。貸主はこの場合、賃借人に対して適切な補償を行う必要があります。
さらに借家借家契約法によって定められた特別な事情が立ち退きの正当な理由として認められる場合もあります。
たとえば、建物の改築・再開発などが必要な場合などがこれに該当します。
一方で、賃借人が賃貸借契約の条項に違反した場合、立ち退きを求める正当な理由となることがあります。具体的な違反行為は以下の通りです。

  • 賃料の滞納:一定期間以上の賃料未払いが続く場合
  • 無断転貸:賃借人が無断で物件を第三者に転貸した場合
  • 使用目的の違反:契約で定められた使用目的以外に物件を使用した場合
  • 違法行為:物件を犯罪行為に使用した場合

立ち退きの正当な理由は、法律や判例に基づき具体的な状況に応じて判断されます。
なお、借地同様、借家契約では一定の契約期間が定められ、その期間が終了した場合には契約が終了するため、賃借人は建物を明け渡すことが必要です。
賃貸借契約の期間が終了すると、原則として契約が終了し、賃借人は建物を明け渡さなければなりません。
ただし、契約の更新が可能な場合もあるため、更新条件については契約書を確認しましょう。

立ち退き料と「正当事由」の関係

立ち退き料とは、貸主が賃借人に対して建物の立ち退きを求める際に支払う「補償金」のことを指します。
これは、賃借人が立ち退くことで生じる経済的損失や精神的苦痛を補うためのものであり、立ち退き交渉を円滑に進めるための手段として用いられます。
しかし、立ち退き料を支払ったからといって正当事由が認められるわけではありません。
正当事由は、法律に基づき適正に判断される必要があるため、単に金銭を支払うだけでは不十分です。
正当事由として認められるためには、立ち退きを求める理由が社会的に妥当であることが必要です。

たとえば、貸主が自己使用のために建物を必要とする場合や、建物が老朽化しており倒壊の恐れがある場合などが挙げられます。
これらの条件が満たされて初めて、立ち退き料の支払いが正当事由としての一部として認められるのです。

さらに、正当事由の判断には賃借人の生活状況や立ち退き後の居住環境も考慮されます。
たとえば、賃借人が高齢である場合や、子どもの通学先が変更できないなどの事情がある場合には、立ち退きが認められにくくなります。

このように、立ち退き料の支払いは正当事由の一環としての役割を果たすものの、それだけで正当事由を満たすものではないため、総合的な判断が重要です。

外的要因による立ち退きに必要な2つの正当事由

立ち退きにはさまざまな正当事由がありますが、外的要因によるものとして特に重要な次の2つの正当事由があります。

  • 建物が老朽化しており倒壊の恐れがある場合
  • 再開発や用地買収などで建物を取り壊す場合

これらの正当事由は、所有者の責任ではなく、外部環境の変化や建物の物理的状況に起因するものです。ここでは、それぞれの正当事由について詳しく説明します。

建物が老朽化しており倒壊の恐れがある

建物の老朽化は、長年の使用や自然環境の影響により避けられない現象です。老朽化が進むと安全性が損なわれるため、倒壊の危険が生じます。
これは所有者の責任ではなく、建物の物理的な寿命によるものです。
建物倒壊の危険が生じる場合、住民の安全を確保するため、立ち退きを求めることが正当事由として認められます。
たとえば、建物の構造が著しく劣化し「修繕が困難であると専門家が判断した場合」や、耐震基準を満たさないために改修工事が必要にもかかわらず「技術的・経済的に実行不可能である場合」などが該当します。
これにより、賃借人に対して早急な退去を求めることが合理的とされます。立ち退きにはあらかじめ十分な説明と、必要に応じて立ち退き料の支払いが求められるのが一般的です。

再開発や用地買収などで建物を取り壊す

都市計画やインフラ整備などの再開発プロジェクトは、地域社会の発展や公共の利益のために行われます。
このような場合に必要なのが、再開発エリア内にある建物の取り壊しが必要となるケースです。この場合、外的要因による正当事由として立ち退きが認められます。

再開発計画が公表されると、行政や開発業者が関係住民に対して説明会を実施し、立ち退きの必要性を伝えます。
その際、立ち退き料の提示や新たな住居のあっせん(紹介)などが行われるのが一般的です。
立ち退きに伴う補償は法律で定められており、住民が不利益を被らないように配慮されています。
再開発による立ち退きは、地域全体の発展を目指すものであるため、住民の理解と協力が不可欠です。
このように、外的要因による立ち退きは所有者の責任ではなく、建物の安全性や地域開発の必要性に基づくものであり、正当事由として認められているため知っておきましょう。

賃借人の過失による立ち退きに必要な4つの正当事由

賃借人の過失が原因で立ち退きを求める場合、以下のような具体的な理由が正当事由として認められます。

  • 賃貸借契約違反
  • 家賃滞納
  • 近隣への迷惑行為
  • 他入居者への嫌がらせ

ここで挙げる4つの事由は、賃借人の行為が原因であり、賃貸借契約の重大な違反となるため、正当な立ち退き理由として法的に認められるものです。詳しく見ていきましょう。

契約違反を行っている

賃貸借契約にはさまざまな条件が記載されていますが、賃借人がこれらの条件に違反すると、立ち退きの正当事由となります。
たとえば、居住用以外での使用を契約で禁じられているのにもかかわらず、事業用として使用して商売を行ったり、ペットが禁止されている物件で飼育したり、無断でリフォームや改装を行ったりすることが該当します。
これらの行為は契約に反し、貸主の利益を損なうため、立ち退きを求める正当な理由とされます。警告文などを送っても改善されない場合は、契約解除と立ち退きを求めることが可能です。

家賃を滞納している

家賃の支払いは、賃貸借契約の基本的な義務です。賃借人が家賃を長期間滞納すると、貸主は経済的な損害を被るため、立ち退きを求めることが正当事由として認められます。
たとえば、3ヶ月以上の家賃滞納が続くと、貸主は契約解除と立ち退きを要求することが可能です。
ただし、滞納の理由が一時的なものであり、賃借人が支払い能力を回復する見込みがあるケースがあります。
この場合、裁判所が立ち退きを認めないケースもあるため、慎重に判断するようにしましょう。

騒音や悪臭などにより近隣に迷惑行為を行っている

賃借人が日常生活において騒音や悪臭を発生させ、近隣住民に迷惑をかける場合は立ち退きの正当事由となります。
たとえば、深夜に大音量で音楽を流したり、不衛生な生活をして悪臭を発生させたりする迷惑行為です。
これらの行為は近隣の平穏な生活を妨げるため、貸主は立ち退きを求めることが可能です。迷惑行為が続く場合、近隣住民からの苦情や警察の介入が証拠として用いられることがあります。

他の入居者への暴力未遂や嫌がらせを行っている

他の入居者に対する暴力未遂や嫌がらせ行為は、重大な契約違反とみなされます。これには、身体的な暴力だけでなく、言葉や態度による嫌がらせも含まれるため知っておきましょう。
暴力未遂や嫌がらせなどの行為は、他の住民の安全と安心を脅かすため、立ち退きを求める正当事由となります。
賃借人の過失が原因で立ち退きを求める場合、これらの具体的な事由が正当事由として認められます。
貸主には、入居者同士が円満な暮らしができるように保全する責任があるため、ここで解説した正当事由を深く理解しておきましょう。

正当事由による立ち退きに関する過去の判例7選

立ち退きの正当事由については、実際の判例を通じて理解を深めることが重要です。
過去の判例は、法的な基準や具体的な適用条件を示しており、実際の紛争解決において参考となります。
ここでは、建物と土地の賃貸借に関する代表的な紛争事例を解説します。

建物の賃貸借に関する紛争

建物の賃貸借に関する紛争は以下の通りです。

裁判所 判決日 事例
東京地裁 R3.12.14
立退容認
築50年以上経過したアパートの貸主は、建物の老朽化と前の賃貸契約の終了に合意したことを正当事由として、賃借人に立ち退きを求めました。
この場合、家賃6ヶ月分の立退料支払いが補完的な事由として認められ、立ち退きが許可されました。
東京地裁 R2.2.18
立退容認
築45年を経過した老朽化したアパートについて、貸主が賃貸契約を解約する申し出を行い、正当事由の補完として立退料100万円を支払うことで合意が成立した事例です。
東京地裁 R2.2.18
立退容認
築57年を経過した木造平屋建て戸建住宅について、賃貸人が賃貸契約の終了と建物の明渡しを求めましたが、賃借人に自己使用の必要性や老朽化による建替の必要性が認められず、正当事由が認められない判決が下された事例です。
東京地裁 R1.12.5
立退容認
特定緊急輸送道路沿いのビルと一体的に建設された旧耐震建物について、貸主から賃借人に対する建物の明渡しを求める申し出がありました。
賃借人が4,000万円余りの立退料を支払うことで正当事由が認められ、建物の明渡しが許可された事例です。

詳しい情報は、以下のリンクから確認してみてください。
参考資料:一般財団法人不動産適正取引推進機構

土地の賃貸借に関する紛争

土地の賃貸借に関する紛争は以下の通りです。

裁判所 判決日 事例
東京地裁 H25.3.14
立退容認
土地所有者が借地権者(賃借人)に対して立退料支払いと引き換えに土地の明渡しを求めた場合、更新拒絶が正当事由を充足していないと判断されました。
しかし、土地所有者の土地利用計画が具体的であり、借地権者の移転が十分可能であることから、借地権価格を基に算定された立退料が支払われ、建物の収去と土地の明渡しを認める判決が下された事例です。
東京地裁 H25.1.25
立退容認
土地の貸主が、賃借人に対して土地賃貸契約の期間満了による終了による、建物の収去と土地の明渡し、さらに約定使用損害金(賃料の3倍相当額)の支払いを求めました。
しかし、貸主の自己使用の必要性が賃借人の事情を上回ると判断され、立退料の支払いと引き換えに明渡しを認める判決が下されました。
この裁判は、使用損害金の支払いも既払金を控除して認容された事例です。
東京地裁 S62.3.23
立退容認
飲食店を経営する土地の賃借人に対する土地所有者の借地契約の更新拒絶について、1億8千万円の立退料の提供により更新拒絶が認められました。

参考資料:一般財団法人不動産適正取引推進機構

以上のように、立ち退きの正当事由に関する判例は多様な状況を網羅しています。具体的な事例を通じて、自身のケースに当てはまる条件や基準を理解することが重要です。

まとめ

立ち退きの正当事由とは、貸主が賃借人に退去を求める際に必要とされる正当な理由のことです。自己使用や建物の老朽化、再開発などが一般的な正当事由に該当します。
正当事由が認められるためには、単に理由を示すだけでなく、立ち退き料の提示や、賃借人に対する具体的な配慮が求められる場合があります。
さらに、正当事由の有無は個別のケースごとに異なり、過去の判例でも詳細な基準が定められています。
立ち退きに関する法的な知識を深めることで、トラブルを未然に防ぎ、円滑な契約終了を実現することが可能です。正当事由の適用には、地域や物件の特性が影響することも覚えておきましょう。

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