宅地建物取引業法(以下.宅建業法)とは、不動産業の営業に関する免許制度や規則を定めた法律です。
免許制度、営業保証金制度、宅地建物取引士制度、8種制限などがあります。
不動産取引において一般消費者の保護を目的とした法律のため、どのような内容で定められているのかを知っておくことで、より安心して取引ができるようになります。
免許制度など宅建業者への規制関係は簡単に解説し、広告や8種制限など一般の消費者に関わってくる部分は少し細かく解説していきます。
宅建業の免許
宅地建物取引業免許には都道府県知事免許や国土交通大臣免許があります
宅建業の免許
宅地建物取引業を営むためには、免許が必要となります。
1つの都道府県内にのみ事務所を設置する場合にはその都道府県知事、2つ以上の都道府県に事務所を設置する場合は国土交通大臣に対して免許の申請をします。申請は法人でも個人でも可能です。
免許を受けるには事務所毎にその従業者数5人に対して一人の専任の宅建士を設置しなければいけません。
その事務所に従事するものが20人いれば4人以上の専任の宅地建物取引士をおかなければなりません。
参照:e-gov 第二章 免許
宅地建物取引士
宅地建物取引士とは、資格試験に合格し、都道府県知事の登録を受け、宅地建物取引士証の交付を受けたもののことをいいます。
宅建士は宅地建物取引の専門家として、不動産取引の重要事項の説明などを行います。
(宅地建物取引士の業務処理の原則)
第十五条 宅地建物取引士は、宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地又は建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地又は建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならない。
(信用失墜行為の禁止)
第十五条の二 宅地建物取引士は、宅地建物取引士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。
(知識及び能力の維持向上)
第十五条の三 宅地建物取引士は、宅地又は建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない。
参照:e-gov 第三章 宅地建物取引士
営業保証金の供託
免許を受けた後、すぐに宅建業を開始することができるわけではありません。宅建業は高額な取引が行われることが多いため、営業保証金を供託所に預入れし、宅地建物の取引に関して損害を受けた者が供託所から保証を受け取ることができるようにした制度です。
宅建業者は保証金を供託し、免許権者に供託した旨の届け出をしなければなりません。
営業保証金
宅建業者が供託所に直接供託します。営業保証金の金額は主たる事務所(本店)が1,000万円、その他の事務所(支店)は事務所ごとに500万円となります。宅建業者との取引の債権を持っている者は供託金額の範囲内で還付を受けます。これを営業保証金の還付といいます。
還付がされると営業保証金が不足しますので、その際は補充が必要です。
参照:e-gov 第四章 営業保証金
弁済業務保証金
弁済業務保証金も営業保証金と目的は同じです。本店1,000万円、支店500万円の営業保証金を準備することが難しい事業者が集まり、分担して供託所に保証金を供託するという制度です。
宅建業者はまず保証協会に対して弁済業務保証金分担金を預けます。そして保証協会が供託所に弁済業務保証金を供託します。分担金の金額は主たる事務所(本店)が60万円、その他の事務所(支店)は事務所ごとに30万円となります。
営業保証金よりも遥かに小さい額で供託できるため、零細事業者でも宅建業を始めることができます。
保証協会とは基準を満たし、国土交通大臣の指定を受けた団体のことを指します。一般社団法人であること、宅建業者のみを構成員とすることなど厳格に定められています。
参照:e-gov 第五章二 宅地建物保証協会
広告の規制
宅建業に定められている広告には様々な制約があります。
誇大広告等の禁止
宅建業者は広告をするときはその広告にかかる宅地または建物の所在、規模、形質等について著しく事実に相違する表示をし、または実際よりも著しく優良、有利であると誤認させるような表示をすることは禁止されています。
契約の成立があったかや実際に誤認をした人がいるかに関わらず、誇大広告等の禁止違反になります。新聞、チラシ、雑誌、インターネット広告、ダイレクトメール、音声などどのような手段でも規制の対象です。
誇大広告の例として、おとり物件(おとり広告)があります。
おとり物件とは実際に存在しない物件、もしくはすでに募集が終了している、そもそも取引の意志がない物件のことです。成約物件を消し忘れているだけというパターンもありますが、悪質な業者もありますので注意が必要です。いずれにせよ誇大広告等の禁止違反になります。
違反をした宅建業者には指示処分や業務停止処分が行われ、重い場合には免許取消処分となります。また、罰則規定もあります。
第三十二条(誇大広告等の禁止)
宅地建物取引業者は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地又は建物の所在、規模、形質若しくは現在若しくは将来の利用の制限、環境若しくは交通その他の利便又は代金、借賃等の対価の額若しくはその支払方法若しくは代金若しくは交換差金に関する金銭の貸借のあつせんについて、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。
参照:e-gov 第三十二条 誇大広告等の禁止
広告開始時期の制限
宅建業者はまだ更地でこれから建築が始まる建売や建築工事の途中の物件など、未完成の物件の販売を行う場合があります。
その際は完成時の図形や模型を用いて販売しますが、建物が完成する前に成約した場合、途中で設計が変わってしまうなど買主のイメージと異なった物件が完成するとトラブルの原因となります。
そのため、未完成の物件については広告を開始できる時期を規制しています。(完成した物件は違反建築物であろうと規制の対象にはなりません。)
規制の内容は下記です。
宅建業者は、宅地の造成または建物の建築に関する工事の完了前においては、開発許可、建築確認、その他法令に基づく許可等の処分があった後でなければ広告をしてはならないとされています。
ざっくり説明すると、建物を建てる際には予め行政の許可を受けてから(建築確認)工事が始まりますが、その許可が降りてからでないと広告を開始できないという内容です。
行政の許可を受けた後は勝手に工事内容を変更することはできないためです。
広告開始時期の制限に違反した宅建業者は監督処分として必要な指示処分を受けます。しかし、罰則はありません。
第三十三条(広告の開始時期の制限)
宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、当該工事に関し必要とされる都市計画法第二十九条第一項又は第二項の許可、建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第六条第一項の確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあつた後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告をしてはならない。
参照:e-gov 第三十三条 広告の開始時期の制限
報酬に関する規制_仲介手数料
宅建業者は宅地・建物の売買や賃借の媒介(仲介)や代理行う場合、契約が成立した際は報酬を受け取ることが出来ます。ただし、自由に報酬を設定して良いわけではなく宅建業法で制限があります。
基本的に契約成立までにかかった必要経費などを報酬と別で請求することはできません。(依頼主の希望によって行った広告の費用などは例外です)
売買の場合の仲介手数料
売買の場合の一方から受け取れる仲介手数料の限度額は下記のとおりです。
売買代金の200万円以下の部分 | 売買代金×5.5% |
---|---|
売買代金が200万円超 400万円以下の部分 |
売買代金×4.4% |
売買代金が400万円超の部分 | 売買代金×3.3% |
例えば、売買代金が500万円の場合の上限は
(200×5.5%)+(200×4.4%)+(100×3.3%)=231,000円となります。
売買代金の200万円以下の部分 | 売買代金×5.2% |
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売買代金が200万円超 400万円以下の部分 |
売買代金×4.16% |
売買代金が400万円超の部分 | 売買代金×3.12% |
※課税業者の場合は消費税10%が含まれており、非課税業者の場合は消費税4%が含まれています。非課税業者なのに消費税4%が含まれているのは、不動産取引のための広告代金などを払う際に消費税を負担していることを考慮したためです。
※売主・買主の両方から依頼を受けた場合は双方から報酬を受け取れます。
賃貸の場合の仲介手数料
賃貸の場合の仲介手数料は貸主・借主の双方から受け取れる報酬の限度額は家賃の1ヶ月分と定められています。
原則として合計が1ヶ月分であれば貸主・借主のそれぞれからいくらずつ受け取るかは自由ですが、居住用の建物の賃貸借の場合は下記の特例があります。
居住用建物の特例
報酬額について依頼者の承諾を得ていない場合は、依頼者の一方から受け取れる報酬の上限は家賃の0.5ヶ月分となります
居住用の建物のみ適用され、土地の賃貸借や事業用の建物の場合は適用されません。
おまけ:アパートを借りる際、特に承諾していないのに家賃の1ヶ月分の仲介手数料がかかったことがある?!
最近では仲介手数料が0.5ヶ月分や無料の会社も多くなりましたが、1ヶ月分がかかる会社もあります。
上記の居住用建物の特例によれば承諾しない限りは0.5ヶ月分が上限のはずなのにどうしてと思った方も多いのではないでしょうか。
実務では重要事項の説明のときに明示し、重要事項説明書(35条書面)に署名、捺印することで承諾をしたという形になっています。
宅建業者が自ら売主になる場合の8種制限
宅建業者は仲介として宅地建物取引に関わることもあれば、売主や買主、貸主、借主など自らが契約の当事者になる場合もあります。
宅建業者は不動産についての知識も豊富なため一般の消費者と直接の契約を結ぶ際には立場が強くなってしまいます。
そこで特に一般消費者の保護が必要な「宅建業者が売主」となる場合には特に厳しい制限を課し、公正な取引ができるように定められたのが8種規制です。
上記の通り、8種規制は宅建業者が売主であり、かつ買主が宅建業者でない場合に限って適用されます。
※宅建業者間の取引や賃貸借契約には適用されません。
自己の所有に属しない物件の売買契約締結制限
宅建業者は、自己の所有に属しない物件については、自らが売主として売買契約を締結することができません。(他人物売買や未完成物件の売買の禁止)
ただし、以下の場合は例外です。
- 宅建業者が物件を取得する契約を締結しているとき
- 未完成物件で、手付金等の保全措置が講じられたとき
他人物売買とは他人の物を売買することです。民法では他人物売買も有効とされていますが、宅建業法では宅建業者が売主の場合は規制されています。ただし当該の土地や建物を取得することが明らかな場合は例外です。
参照:e-gov 第三十三条の二 自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限
クーリング・オフ
不動産会社が自ら売主となって宅地または建物を売買契約を締結する場合(買主は宅地建物取引業者以外)はクーリングオフ制度の適用を受けます。
宅地建物取引は高額なため、買主は慎重に検討しなければなりません。
宅建業法では契約締結の場所において規制を設け、一般の消費者が冷静に判断できるようにしています。
原則、宅建業者の事務所等以外の場所で買受の申し込みをした買主は、書面により申し込みの撤回、契約の解除ができます。
申し込みの撤回や解除は書面を発したときの効力が生じます。宅建業者は損害賠償や違約金の請求をすることができず、速やかに手付金等の返還をしなければなりません。
ただし、下記の場合は冷静な判断がされたとみなされ、クーリングオフは適用できません。
- クーリングオフの説明を受けた日を起算日として8日が経過したとき
- 物件の引き渡しをうけ、かつ代金を全て支払ったとき
- 不動産会社(売主)の事務所等で買受の申し込みをしたとき
- 買主の申し出により買主の自宅、職場で買受の申し込みをしたとき
基本的にクーリングオフ制度は買主が申し込みした場所でクーリングオフができるかできないかが決まります。
例えば、宅地建物取引業者(売主)の事務所・モデルルーム・買主の申し出で自宅や勤務先で申し込みをした場合はクーリングオフの適用はありません。
反対に不動産業者からの申し出によって自宅で申し込みした場合や喫茶店などで申し込みをした場合などはクーリングオフが適用できます。
参照:e-gov 第三十七条の二 事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等
手付金の保全措置
不動産売買では通常、契約の締結時に売買代金の一部を手付金として支払います。
契約締結後、引き渡し前に売主の都合で契約を解除された場合、買主へは手付金が返還され、さらに手付金と同額がペナルティとして支払われます。これを手付倍返しといいます。
しかしながら売主が宅建業者の場合、零細事業者などは契約締結後、引き渡し前に倒産してしまうかもしれません。その場合、物件は手に入らず、手付倍返しどころか支払った手付金が返ってこない可能性があります。
そういった場合に備え、手付金の返還を確実にするための保全措置が定められました。
原則、保全措置を講じた後でなければ手付金等を受領することはできません。
保全措置とは何かあった際に手付金を返還できるように銀行による連帯保証や保険事業者による保証保険を契約することです。
参照:e-gov 第四十一条、第四十一条の二 手付金の保全措置
損害賠償額の予定等の制限
売買契約後に購入資金が用意できずに契約を解除する場合など、買主が債務不履行をした際の損害賠償及び違約金の額に制限を課したものです。
不動産売買では、売買契約後に購入資金が用意できずに契約を解除する場合など、債務不履行により契約が解除されるケースがよくあります。
そのため予め損害賠償額を定めておき、損害額の証明がなくても損害賠償の請求ができるように合意の上、契約をするのが一般的です。これを「損害賠償額の予定」といいます。損害賠償額の予定を定めた場合、実際の損害額が上回ったとしても、損害賠償額の予定の金額以上の請求はできません。
宅建業者が売主の場合は、損害賠償額の予定について下記の制限を設けられています。
- 損害賠償額の予定、または違約金を定める場合はその合算額が売買代金の20%を超えてはならない。
- 20%を超える部分については無効とする
この制限によって、契約上強い立場にある宅建業者が高い違約金を設定することを防ぎ、一般消費者の買主を保護しています。
参照:e-gov 第三十八条 損害賠償額の予定等の制限
手付金の額の制限等
手付金の保全措置の項目でも説明しましたが、不動産売買では通常、契約の締結時に売買代金の一部を手付金として支払います。
買主が契約締結後にもっと良い物件を見つけた場合、この手付金を放棄(売主に支払う)ことで契約を解除することができます。これを手付流しといいます。
いわば買主は手付金を払うことで気に入った物件を一時的にキープしているようなものです。売買代金に対してあまりに高額な手付金を設定されてしまうと一般消費者の買主は不利になってしまいます。
そのため、売主が宅建業者の場合の手付金の額については下記の制限を設けています。
- 受領する手付金の額は売買代金の20%を超えてはならない
また、手付金について買主が不利になる特約は無効となります。
参照:e-gov 第三十九条 手付の額の制限等
担保責任の特約の制限
民法では、売買契約後に瑕疵(土地建物の問題、欠陥)が見つかった場合、売主が瑕疵について知らなかったとしても、売主の責任になるとされています。
その瑕疵が原因で売買契約の目的が果たせない場合には、瑕疵の発見から1年以内であれば買主は契約を解除することができます。
そのため、売主は責任を回避するために事前に「一切の瑕疵担保責任を追わない」などの特約をつけたいと考えることが多いです。
しかし、一般消費者同士の契約であれば当事者が合意していれば問題ないのですが、売主が宅建業者の場合は売主の立場が強く、一般消費者の買主が丸め込まれてしまう可能性があります。
そのため宅建業法では担保責任の特約に下記の制限をつけています。
- 瑕疵を発見した時から1年以内(民法)
- 物件を引き渡した日から2年以上と定める特約は有効
- 民法よりも買主が不利になる特約は無効となり
→買主に不利な特約は無効となり、民法が適用される(民法の原則)
すなわち、「一切の瑕疵担保責任を追わない」「売買契約の時から2年以内」などの特約は無効となります。
責任期間は瑕疵を知ったときから1年以内です。1年以内に通知がされなかった場合、売主は責任を追わなくて済みます。
ただし、物件の引き渡しから2年以内と特約をつけることは可能です。瑕疵を知ったときから1年以内よりも不利な契約とも捉えられるのですが、引き渡しから2年が経過していれば、欠陥は発見できるだろうと考えられているためです。
買主は追完請求、代金減額請求、債務不履行による損害賠償請求、契約解除ができます。
参照:e-gov 第四十条 担保責任についての特約の制限
割賦販売契約の解除等の制限
割賦販売契約とは分割払いによる契約のことです。宅地建物の取引は高額なため分割の支払い期間は長期に渡ります。10年や20年と長い期間で返済をしていくなかで、うっかり口座にお金を入れるのを忘れてしまうなど、支払いの遅延が起きてしまう可能性があります。もし「買主の支払いが遅れた場合はただちに契約が解除できる」、「買主の支払いが遅れた場合はただちに残代金を請求できる」などの特約が認められると買主はかなり不利です。
そのため、割賦販売について下記の制限が設けられています。
- 買主から賦払金が支払われない場合でも、すぐに契約の解除、一括返済を求めることはできない。30日以上の相当の期間を開けて、書面にて支払いを催告する必要がある。
催告期間以内に支払いがない場合は契約の解除、一括返済を請求できる
また、「口頭による催告で契約の解除ができる」など上記に反する特約は無効となります。
参照:e-gov 第四十二条 割賦販売の契約の解除等の制限
所有権留保等の禁止
所有権留保とは売買代金全額が支払われるまで所有権を買主に移転せず、売主に留めておくことです。
宅地建物取引業者が自ら売主として割賦販売を行った場合には、買主が代金の3割を超えた支払いを行った場合、所有権移転登記などの売り主の義務を履行しなければなりません
- 売買代金の30%を超えて支払いがされた場合、売主は所有権移転を留保することはできない
ただし、買主が3割以上の代金を支払っても抵当権・保証人など支払いに関する担保を提供しない場合にはこの限りではありません。
参照:e-gov 第四十三条 所有権留保等の禁止
宅地建物の取引は宅建業者にお任せください
不動産会社は宅建業法を遵守し、公正で適正な運営を行っております。
弊社、株式会社マーキュリーは15年以上、宅地建物取引のプロとして多くの方のサポートをしてきた実績がございます。
主に借地・底地を専門に扱っており、顧問弁護士と連携し法律関係もご相談可能です。
ささいなことでも構いませんので、お困りごとがございましたら、ぜひ、ご相談ください。ご相談も査定も無料で承っております。